名前:報告書(検閲済)
HP :30
攻撃力:0
防御力:6
素早さ:0
剣技:
・十字架
設定:
---6月6日
ゼロ地区より保護された青年の診察を依頼される。
大崩壊以降あそこから外へ出た一般人は皆無だったので、とても興味深い被検体だ。
話によると記憶を失っているらしいが、どうか。
---6月7日
被検体と会う。
全生活史健忘と見受けられる。全健忘状態。
一人称を「僕」と言い、今の世界がどうなっているか、ゼロ地区も何も知らない模様。
鉛筆や紙などの知識、一般成人男性並みの読解力と計算力は喪失していない模様。
とりあえず、今の段階では心因を排除し彼の精神を安定させることが優先される。
---6月8日
被検体に名前を授ける。番号では人間らしくない。
この日より彼を「間」と名づける。
私は彼に講義をした。この世界のこと。大崩壊。ゼロ地区。
彼の記憶を呼び覚ませそうなことを手当たり次第教えてみた。
彼は優秀な生徒のようだ。スポンジのように次々と新しいことを覚えていく。
---6月9日
…どうも、嫌な予感がする。
---6月10日
改めて家族のことについて聞いてみた時、脳波にある変化が訪れた。
痛覚を感じているらしい。唸っていた。
初日に家族のことを聞いたときには、何の変化も無かった。
何故だ?
診察は昼で切り上げた。彼の精神を尊重する。
---6月11日
あまり話す気がないようだ。見守る。
---6月12日
今日も変わらず、脳波にあれ以上の変化は無い。
---6月13日
間を置いたほうがいいと思う。そう、思う。
"日記は暫く、彼のことについて触れられていません"
---7月13日
彼が話す気になった。
脳波にムラがある。軽い躁状態だ。
私が質問すると、聞いていないことまで喋る。まるで熱病患者だ。
少し休ませて様子を見る。
---7月14日
まるで一ヶ月間溜めていたフラストレーションを一気に吐き出すように喋り続ける。
なんだこれは?脳波は依然ムラがある。
恐る恐る、家族について聞くと沈黙した。脳波も同じく。
奇妙だ。
---7月15日
被検体「間」に妹がいることが発覚。
既に死亡していた。
ゼロ地区で彼が救助された時、隣の寝室で死んでいた。
死因は多量の出血によるショック死。
多くは語りえない。
---7月16日
躁状態から一転、鬱状態になった間に妹のことを聞く。
すると「知らない」と言った。さらに「僕は一人っ子だ、家族なんていない」とも言った。
脳波が安定してきている。
---7月17日
私は何か大きな勘違いをしているのではないか?
気になってしょうがない。
…彼とゲームをした。
正確には、彼の脳に刺激を与え記憶を呼び起こすために、だ。
ゲームはオセロに始まり、チェスで終わった。
既に知識があるといえ、凄まじい学習速度だ。
ゲーム中、非常に脳が活発に動いていた。
欝のケも消えたらしい。
---7月18日
脳波はとても安定している。
病院内の普通の患者と変わらない。
退院させるべきか?
だが、どこにだ。
---7月19日
上からの圧力が掛かる。
半年近く、病院で彼の面倒を見ることになった。
彼は相変わらず虚ろな眼で、日々を生きている。
家族について聞いても、もはや何の特異な反応も得られない。
---7月20日
彼とチェスをすることが日課になってきた。
正直、面白い。どんどん強くなっていく。
まるで生まれたての子供が知識を求めるように、彼は覚えるのが早い。
"しばらく、日々の日記に戻り、彼との平凡な日々が続いています"
---12月1日
彼に初めてチェスで負けた。
彼は私に勝つと「ありがとうございます、先生。このゲームは、もう、いいです」と丁寧に返した。
勝ち逃げされたか。
追記:彼を保護した救助隊員からとんでもない話を聞く。
…何故、xxxxがあの部屋にあったのか?
そもそも、xxxは誰のxxxだ。
…嫌な予感だけが、積もっていく。
---12月2日
気づいてしまった。手遅れだ。
彼は記憶喪失などではない。
これは、人格が上書きされたのだ。
気づくのがあまりにも遅すぎた。
彼は医者に見せるべきじゃなかった。ましてや、私のような。
大至急、催眠術師を呼び彼に催眠をかけたが「主人格」は既に消滅しているのか、沈黙していた。
一番最初に気づいていなければならなかったのだ。
今の彼は「仮人格」だ。
なんらかの心的外傷が主人格を襲い、その防御のために今の仮人格「間」が生まれたモノと思われる。
結局、彼の主人格は事件の際のプレッシャーに耐え切れず、欠損した模様。
やはり、ゼロ地区、そしてあの部屋でなにかあったのだ。
事実を知る主人格は既に死んでいる。
悔しくてしかたがない。
彼の退院の日が迫ってきている。12/19。
何もかもが遅すぎた。
---12月3日
彼の一人称が「私」になっていることに気づく。
どうやら私は餌にされたらしい。
彼は最初の数ヶ月のことを覚えていなかった。
白紙にされたのだ。そして、そこに新しい人格の種が宿り、成長した。
水を与えたのは私。
彼は私の人格を非常に上手くトレースした。癖も、チェスの打ち方も。
非常に不快ではあるが、これは私の罪だ。
主人格が消え去る手伝いをしてしまった罪。
上手いこと、知識と人格形成方法を私から抜き取った。
彼にその自覚は無い。
---12月4日
彼の人格が完成した。
彼はベッドの端に座り窓際で揺れるカーテンと、そよ風に身をゆだねていた。彼が完成する瞬間を見た。
「あぁ、先生。いらしていたのですか」
「私はもう大丈夫ですよ」
「お世話になりました」
「長い間悪い夢を見ていたようです」
「先生のおかげですよ」
「私はこれから外で生きる努力をしていこうと思います」
「外に出ても先生のことは忘れません」
医者としてもう何も言うことは無い。
---12月5日
秘策を思いつく。
彼に勝負を仕掛ける。
勝負は一週間後だ。
それまで準備を続ける。
---12月12日
「退院の日がもうすぐそこまで来ているな」
「えぇ、長いようでしたがこの病院とももうすぐお別れですね。先生とも、先生には、本当にお世話になりました」
「そう思うなら、一つチェスに付き合ってくれないか?」
「え?いいですよ。でも、もう私はあのゲームをやる意味は無い、と思うんですが…」
「勝ち逃げされたんじゃ、私の面子が立たないものでね。ついでに一つ特殊ルールを設けよう。君と私の最後の親睦を深めるために、互いに駒を進める前に相手の質問に答えるルールを付け加えたい。相手は自分が駒を動かす前に質問をし、質問に答えた後自分の駒を動かす。"答えられなかった"場合はパス、一手お休みだ。質問は別に強制じゃない。ただし、一度ゲームが始まったら如何なる理由があっても続行し、文句はナシだ。どうかな?簡単なルールだろう?」
「いいですね。わかりました。受けましょう」
「では、お手柔らかに」
---12月13日
彼に勝った。
人格に亀裂を入れることに成功する。
---12月14日
あらゆる方法で彼の精神に揺さぶりをかけた。
「家族」「妹」「ゼロ地区」「xxx」「xxx」
途中、何度か非人道的なことについても問い詰めた気がするが、なぁに、気にしない。
私が受けた屈辱に比べれば、どうということはない。親のしつけだ。
---12月15日
彼が私に憎悪のまなざしを向けている。一人称が「俺」と「私」の中間をさ迷っている。
人格の亀裂を広げる作業はまだ続いている。
だんだん、変容してきている。いい傾向だ。
---12月16日
彼の精神が一種の恐慌状態に陥る。
精神錯乱、暴走、自傷行為。
とてもいい傾向である。
---12月17日
一日中暴れた彼はついに沈黙した。
彼の精神が不安定な時に催眠術を仕掛ける。
勝負は続いている。
数時間かけて、主人格の残骸らしきものにたどり着いた。
あのダイバーは優秀だ。
「何故彼女を殺した…?」
「これは罰なのか?お前は僕を罰するために生まれてきたのか?」
「僕は間違っていたのか…どうすればいい…」
「答えてくれ…」
「…お前は僕なのか?」
疑惑を残したまま、主人格の残骸は消えた。
結局、私の推理に確信は得られなかった。彼の名誉のためにも、この推理は伏せておく。
---12月18日
彼に"特別な治療"を施す。
---12月19日
「先生、お世話になりました。俺はもう大丈夫です」
「いや、何か思ったより短かったですね」
「なんででしょう、半年もいたのに、つい昨日入院したばかりな気がするなぁ」
「最初は殆ど何も喋らなかったんですよね」
「結局、チェスじゃ先生には一回も勝てなかったな。一回ぐらい勝ちたかったけど・・・」
「退院日にこういうこというのも気が引けますが、俺は先生のことどうもあんまり好きじゃなかったらしいです」
「それじゃ、また」
「?どこへ行くって?あぁ、僕はゼロ地区に戻りますよ。失った記憶を取り戻したい、という思いは最初から変わってません。それでは」
---xxxxx
彼から数ヶ月ぶりに連絡があった。
"治療"は効いている模様。
今、家出少女と二人暮しをしているらしい。
実質、その少女は居候のようだが。
---xxxxx
仕事でゼロ地区へ向かう。
---xxxxx
間と会う。ちょっと嫌そうな顔をしたが、概ね状態は良好。
しかし、彼の言う少女の姿は、終日見つからなかった。
………ふむ。
---xxxxx
件の少女に会う。
元気溌剌、青春真っ盛りといった所か。
健康優良不良女子といった感じだ。
何故ゼロ地区に住んでいるかは非常に理解しがたいが安心した。
喋り方が気に触ったのか、ひどく嫌われてしまったようだ。
経過観察をこれで終わる。
次は一年後とする。
また、この日記をもって上層部への報告書とする。
余白:恐らく彼は自分のxxxをxxxし、xxxしてしまったのだろう。そしてxxxのxxxを自分自身を勘違いした彼はそのxxxを罪と罰の使者とみたてた。
その重さに耐え切れず、彼は妹を殺した。
彼の主人格は罰せられたかったのかもしれない。
もしかしたらその後、xxxでさえも取り込んだのか?今の彼はxxxなのかもしれない。
推理として、妹を殺したのは彼だ。それはほぼ間違いない。
だが"主人格"ではない可能性もある。彼は二重人格だったのかもしれない。
あるいは(ここで筆が止まっている)
オーナー:nitoro
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