名前:剣の女王スカーレット
HP :15
攻撃力:4
防御力:2
素早さ:1
剣技:
・クィンボルテージ ・盾の女王 ・斬撃剣 ・血沸く斬撃剣 ・咲き誇れコスモス ・流星剣 ・グラン・フィナーリア ・自我増大シュヴァルツシルト ・共感する体温プロミネンス ・ものぐさエントロピー ・揺蕩うウェイトレスネス
設定:
私のいちばん古い記憶は姉さまの微笑んだ顔だった。
あれは初夏のころ、姉さまは庭に生えている林檎の木に登って、実を齧っていた。私も同じことをしたくて、なんとか姉さまにひっぱりあげてもらった。枝に腰かけておいしいおいしいと食べている間はよかったが、さて食べ終わって降りるという段になって問題が発生した。降りられないのだ。登ったときのように姉さまに手を引いてもらうわけにもいかない。落ちるのが怖いのだから、下からひっぱられたらよけいに怖くなってしまう。いかに姉さまが力もちといえども抱えて降ろせるほどの体格差があるわけでもなし。城の裏手に当たる場所で、ほかに誰もいなかった。ついに私は泣き出してしまった。姉さまは木の下に立って腕を広げた。ここに落ちてこい、と。ふんぞり返るような威張った顔で待っていた。地面に落ちるのではなく、姉さまのもとに飛び込むのだと思うと、恐怖など吹っ飛んで幸せだけを感じていた。それでも、脚が枝から離れると不安になって空中で泳いでしまう。姉さまは安心させようと笑顔で私を抱きしめてくれた。夕暮れだった。なにもかもが完璧で美しかった。
しばらくしてから聞いた話だが、あのとき姉さまは脚を骨折していたらしい。まったく知らなかった。すぐさま姉さまに謝罪したが姉さまも忘れていた。そんなことあったか、といっていた。このときからだ、私はこの人を傷つけるものから守りたいと思った。
喩えば、帝王学を教える当時のマーガレット王から。年齢が近いからか、私たちはたびたびいっしょに教わった。姉さまはよく怒られていた。出来がわるかったわけではないと思う。王の説諭中に、そんなもん場合に因るだろ、みたいなさがな口をはさんでいた。私が見るところ帝王学とは大雑把に、人とはなにか、だった。王として民とどう接すればいいのか、経験者としての知見を聞くことには大いなる価値がある一方、私たちがそれぞれどんな人に出会いどんな交流をするのかは自由だ。王が説きたいことも、姉さまの言い分も理解できる。ならば、必要なときに必要な視点が王に提供されればいいはずだ。受け継がれる王の智慧は絶えることなく、姉さまはなんのしがらみもなく気ままに発想することができる。私はシンクタンクだ。
喩えば、森に隠れ潜むフロストサラマンダーから。姉さまはブレスタ狩りが得意だった。あるいは冒険者に適性があったのかもしれない。王ほどとは思えないが。街で聞いた目撃談をもとにひとりで突撃しようとしたところを私が見咎めた。私も連れていけ、と。姉さまと私は、その年齢の子供にしては腕が立ったかもしれない。冒険初心者ぐらいのことはこなせた。天狗になっていた。城にいる肥った馬ぐらいの蜥蜴が岩の上から殺意のこもった目を向けてくる。ぬめぬめとした躰は周囲の空気を凍てつかせている。目に見える範囲の植物は萎び、枯れている。震え慄く私を尻目に姉さまは双剣を振りかぶって走った。姉さまの前髪はすでに凍っている。フロストサラマンダーはもう何度目かわからないブレスの予備動作に入る。あの体勢では直撃は避けられない。きっと捨て身のつもりなんだ。私はもう木から降りられない子供ではなかった。悴んだ指はまだ動く。姉さまに追いつき、追い越し、盾になる。ブレスが放たれ、背中から体温を奪われるのを感じる。ひどいことになっているんだろうな、と他人事のように思った。ブレスはそう立て続けに出すことはできない、息を吸い込む準備時間がある。だからブレスの前に姉さまが斬撃を繰り出せば。姉さまの双剣は腕からぶらりと垂れていた。フロストサラマンダーを見てもいなかった。びっくりして、泣きそうな顔で、私を見ていた。
姉さまと私は死んだ。フロストサラマンダーはエルフの森番係が射殺し、その足で姉さまと私の屍体を城に運んだ。城ではすぐに蘇生魔法が行われた。屍体が凍っていたのは却ってよかったらしい。暖炉の前に座らされて、そのあと、たくさんの人にさんざん怒られた。
姉さまがいうには、私がブレスを受けるとき「私は女王の盾だ」と叫んでいたらしい。そうありたいと思っていたからつい口から出たのかもしれない。姉さまは「盾の女王だ」といってくれた。不遜な気もするが、今でも気に入っている。
姉さまから二通の手紙を預かった。一通は私宛に。もう一通ははるか異国の王宛てに。いやな予感がする。姉さまはお転婆だから、危険なことにすぐ顔を突っ込む。できれば私がついて行ってできうる限り守ってあげたいが、いつどんなときでも守ってあげられるわけではない。信じることもときには必要だ。でも心配は尽きない。今度はいったいなにをしでかすのか。私がいっしょに怒られてあげられることは少なくなった。
オーナー:c
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