名前:漆口ふたえの個人的な体験
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:2
剣技:
・召喚剣<10/0/0/4/熱熱絶絶/トウソウガンボウ> ・召喚剣<20/0/1/2/死盾護/タイコウ> ・召喚剣<5/0/0/4/熱絶衝衝熱> ・召喚剣<25/0/0/2/死回4斬/トウカイ> ・召喚剣<5/0/0/2/魔魔魔魔魔魔魔/オキカエ> ・召喚剣<5/0/0/3/鏡鏡鏡鏡鏡鏡/ジコトウエイ>
設定:
5.
翌朝起きると、妖精もどきは消えていた。
あれは丸ごと夢だったのだろうか、と思った。だが、あれが夢だったとしても、私はあの妖精もどきの言葉で決めたのだ。
九島さんに、何があったか話そうと思う。
九島さんは、性格の曲がった私でも尊敬の念を抱かされる、本当に立派な人だ。ちょっとやそっと苦手な話だからといって、子供みたいに逃げ出すとは思えない。私がなぜ退部したかを、冷静に受け止めてくれるだろう。あのよく分からない妖精もどきの言葉に従うのは何だか癪だが、でもこれはちゃんと私が考えたことなのだ。自分で責任を持って決めた行動なのだ。だから、話をする。
……なんて。目を覚まして、服を着替えるまではそんな強い決意とともにあったのだが。朝ごはんを食べて、家を出るくらいになると、みるみる憂鬱になってきた。私はややこしい関係のもつれというのが、大変苦手だ。シリアスな空気も苦手だ。
天気はよかったが、私は小さい頃から雨の方が好きだった。雨の日は、あまり活発さが求められないような気がするからだ。その気楽さに比べれば、髪がやたら跳ねる程度どうということでもない。どうせ私はオシャレに興味はないのだ。しかし今日は天気がいい。朝日が私を脅しつけているようで心が縮む。
私はいつもに増して肩を落として通学路を歩いていた。すると、声が聞こえた。
「お前本当に根性ないのな」
不意の声に辺りを見回すと、近くにある塀、の上にいる痩せた猫、の首の上、に、妖精もどきがまたがっていた。なんかドヤ顔で。
「……何で猫?」
「いや、なんかインパクトのある登場の仕方をしたいと思ってな。そしたらちょうどいいナマモノがいたもんで。どうせ俺が触ってもこいつらは気付かんわけだし、それなら存分に利用させてもらおうかと。帝王学だな」
「それは帝王学に対する大きな誤解だと思うけど」
「そんなことより問題はお前の根性のなさだ」
「う……」
妖精もどきは猫の首から飛び上がると、私の目の前に飛んできた。大して苦もない様子でホバリングをしている。
「俺のありがたい言葉で幸福への一歩を踏み出そうとしてるのに、何をためらうことがある」
「幸福なのかなあ」
「話を逸らすな。決めたんだろ。大切な友達をなくしたくないんだろ。だったら話すしかない」
「……分かってるよ」
妖精もどきの大げさな言葉は、しかし私の内心へは響いていた。大切な友達。なくしたくない。その通りだ。九島さんは学校でほぼ唯一の私の友達だし、もしも私にたくさん友達がいたとしても、九島さんほど素敵な人は他にいないだろう。かけがえが、ないのだ。
「うん。話す」
私は自分の心を決めなおした。それしかないのだ。
「ありがと、フコー」
「いやいやどうってことないぜフコーってなんだ。萌え語尾か」
「あんたの名前。夢で考えた」
「おお、ついに俺も登場人物として人格が認められたか。どういう意味の名前だ」
「不幸。不幸せ。ハードラック」
「なんだと。ファック。ファァーック!」
妖精もどき改めフコーは、小さな中指をつきたててきた。
「だって、私を幸せにするために現れたってことは、私が不幸せだからあんたがいるってことでしょ。『世界が皆幸せなら歌なんて生まれないさ』って感じ? あんたは不幸の化身。だからフコー」
「なるほど、理屈だな」
何度かうなずくフコー。
「って、だからってお前他人にフコーってひどいだろ。虐待だろ」
「いいの。あんたは私からしたらわけ分かんないんだから、そういう名前がお似合い。どうせ私しか呼ばないんだし」
「これがパワーハラスメントか……。む、見ろ」
フコーが空を指す。そちらを見ると、太陽が輝いていた。今日は快晴だった。
「何? 飛行機?」
「いや、太陽の位置的に、果たして学校に間に合うのかという疑問が浮かんでな」
「あ!」
慌てて腕時計を見る。時間はギリギリだった。
「ヤッバ!」
私は、本当はまだ少し残っていた躊躇いをその場に捨てて、学校に向けて走り出した。
「ごめんなさい、九島さん」
昼休み、学校の裏庭にて。私は九島さんと二人だけで立っていた。
「昨日、心配してくれてるのに、わざと嫌がるようなこと言ってごめん。私が悪かった」
そう言って私は頭を下げる。
私の言葉を、九島さんは眉を下げ、少し困ったような表情で聞いていた。それから、ゆっくり首を振った。
「ううん……いいよ、私も、無理に聞こうとしてごめん。ウルにも色々、事情があるよね。もう聞かないから」
九島さんは、昨日はあんなにしつこかった追及を、あっさり止めた。やはり、昨日一晩、後悔したのだろう。悪いことをしたと思う。
「いえ。聞いてほしい。何があったか。話したいから。聞いてくれれば、だけど」
九島さんは、驚いた表情になった。
「……大丈夫なの?」
「うん。私は」
「じゃあ、聞かせて。やっぱり、聞きたいから」
「よしきた」
重くなった空気が嫌で、わざと少し軽く言ってみた。九島さんも、それに合わせるように、少しだけ微笑んでくれた。そして私は話を始めた。
「実は……」
私の話は、かなり細かい物になった。誰が私にちょっかいをかけてきたのかなどは、ぼかした方がいいだろうかとも少し思った。だが、この期に及んで変に隠し立てするのは相応しくないと考えて、正直に姫宮の名前を出した。誰かにこのことを話すのは初めてだったが、午前中の授業を聞き流しながら、何度も頭の中で話の仕方を確認してきたから、スムーズに話せたと思う。
九島さんは、相槌を打ちながら聞いてくれた。意外なというべきか、やはりというべきか、恋愛が原因だと話しても、あからさまに嫌な顔はしなかった。私が姫宮たちにされたこと、例えば楽譜を一部分抜き取られ掃除バケツに突っ込まれていたことに始まり、囲まれて罵声を浴びせられたとか、もっと嫌なことをされたとかのくだりの部分で、痛ましそうな表情になったくらいだ。
「……まあ、そういう感じで。私が合唱部にい続けても状況は変わんないかなと思って、辞めさせてもらったってこと。今更まともな他の部に行っても、ほら私って浮いてるから馴染むのに苦労するだろうし、また似たような揉め事が起きても嫌だから――まあ私が男に惚れられるなんてもうないだろうけど――、気楽な地学部に入ったの。以上っ」
そうやって私は話を結んだ。
九島さんはまた一つ、小さくうなずいた。
「ありがとう、ウル。話してくれてよかった」
「そうかな」
「うん……私に惚れたなんてめちゃくちゃな話よりは少なくともいいよ」
「いやあれはその苦し紛れというかイッパイイッパイの産物というか」
くすり、と九島さんは笑った。それだけで私は救われた気分になった。
九島さんはまじめな顔に戻り、
「じゃあ、ウルは、合唱自体が嫌いになったんじゃないんだよね」
「それは。…………」
少し、詰まった。けれど、言いたかった。
「……合唱、好きだよ」
「……本当は、辞めたくなかったんだよね」
「…………」
「ごめんね、気付いてあげられなくて」
「やめてよ、九島さん。九島さんのせいじゃないよ。今日謝るのは私の方なんだから」
「ウル……」
九島さんは、私に歩み寄ってきた。そして、私の背中にそっと手を回した。
「辛かったよね。孤独だったよね。ウルは悪くないのにね」
九島さんの小さい体は、私を抱擁するというより私に抱きついているようだった。けれど、とても柔らかく暖かかった。
「う……うう」
私は姫宮たちに嫌がらせを受けている時も、一度も涙を流さなかった。人の前でも、一人の時も。だから私はまだまだ平気だと思っていた。だから誰にも言わなかった。小学校の高学年頃から高校に入るまでの友達のいない年月は、私にそれを自然なことだと受け取らせていた。むしろ、九島さんとおしゃべりして笑えているし、ご飯も食べられるし、幸せで余裕があると信じていた。姫宮たちの行為をくだらないと見下して、心の安定を保てているつもりだった。
でも、私は気付いた。違うんだ。外に出さなかった涙は中に溜まる。それは外に出すより始末が悪い。足の先から段々と水位を増して足取りを重くし、腰を越し、やがて息がまともにできなくなる。私はそうなる寸前だったんだ。限界は近かった。気付いてしまった。九島さんが気付かせてくれた。私は、とても、辛かった。
鼻の奥がつんとし、目頭が痛くなり、呼吸がひくりと痙攣するのを自覚したら、もう耐えられなくなった。
私は泣き始めた。
「嫌だったよ……辞めたくなかったよぅ……」
「ごめん、独りにしてごめんねウル」
「戻りたい……合唱したいよ……悔しいよ……!」
九島さんはもう何も言わず、昼休みの間、ただ子供のように泣きじゃくる私を抱きしめていてくれた。
オーナー:takatei
評価数:5 (clown)(Madness)(suika)(samantha)(clown) 百合じゃなかったけれど面白いのでよかった (clown)(03/09 00時24分24秒)
胸が締め付けられる… (Madness)(03/09 00時28分04秒)
イイハナシダナー (suika)(03/09 00時31分22秒)
いや百合だろ (samantha)(03/09 07時23分46秒)
百合なの! (clown)(03/09 11時55分17秒) |