名前:漆口ふたえの個人的な体験
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:3
剣技:
 ・召喚剣<10/0/0/4/熱熱絶絶/トウソウガンボウ>
 ・召喚剣<0/6/0/2/高高/ハンドウケイセイ>
 ・召喚剣<20/0/1/2/死盾護/タイコウ>
 ・召喚剣<5/0/0/4/熱絶衝衝熱/ドウイツシ>
 ・召喚剣<5/0/0/2/魔魔魔魔魔魔魔/オキカエ>
 ・召喚剣<25/0/0/2/死回4斬/トウカイ>
 ・召喚剣<5/1/0/4/熱熱衝衝>
 ・召喚剣<5/0/0/3/鏡鏡鏡鏡鏡鏡/ジコトウエイ>

設定:
8.
 翌、土曜日。
「いやあ、歌った歌った」
 カラオケで五時間ほど歌った帰り道、私はフコーと話しながらゆっくりと夕暮れの道を歩いていた。
「案外体力あるなお前」
「合唱部は体育会系文化部だもの」
 潰れた元靴屋の前で、スーツを着た女性とすれ違う。こんな世界がくたびれる時間帯なのに、はつらつとした足取りがどこか九島さんを思わせた。
 少し色付いた太陽と、閑散とした通りは、気分を自省に連れて行く。
 一人でも、友達とも(九島さんくらいしかいないが)、しばらくカラオケに来なかったのは、やはり歌うことが合唱部に繋がり、合唱部は姫宮たちのことに繋がってしまうためだったのだろう。些細なことで傷に触れる。でも、もう大丈夫、だと思う。
「合唱部っつっても、元、だろ」
 フコーにそんなことを言われると、まだ胸がキリリとはする。でも大丈夫だ。私は一人ぼっちじゃない。九島さんがいる。フコーもいる。
「まったくだ、俺がいなけりゃ、途中で帰らなきゃならなかったんだからな」
 そう、私は、また忘れ物をする所だったのだ。昨晩、カラオケボックスの会員カードを忘れないように確かめようとして財布から取り出し、机の上に置いて忘れていた。そして今朝そのまま家を出ようとして、フコーに指摘されたのだ。
「うん、それは感謝してるよフコー。ありがとう」
 親には素直に言えないお礼も、フコーにはなぜか言えた。フコーとなら、失敗ばかりでだらしのなかった私も、人並みにやっていけるんじゃないか、と思えた。
「ん? 何か聞こえなかったか? なんか地面に落ちるような」
 フコーが言った。
「そう? 何も気付かなかったけど……」
 私は周囲を見回した。
 背後で、さっきすれ違った女性が倒れていた。
「えっ!?」
 目の前で人が倒れているのを初めて見た私は、驚き立ちつくした。
「ぼうっとしてないで行ってみてやれよ」
 フコーの声に我に返り、女性へと駆けよる。女性は胸を押さえ、苦しそうな表情を浮かべていた。
「ど、どうしたんですか!」
 声をかけると、女性は何か呻いたようだが、よく聞こえない。フコーが、
「とりあえず病院だろこういう時は」
 と言った。それはそうだ。慌てて携帯電話で119にかけ、現在の状況を伝え、電話を切る。
「おい、こいつ息してないんじゃないか」
 まさか、と思いながら女性を仰向けにして呼吸を確かめる。確かに、止まっていた。
「わ、うわわわわ、ど、どうしたら」
「人工呼吸しろよ」
「じ、人工呼吸、でもどうやったらいいか」
 以前学校で、救命講習を受けたことがあった。その際に人工呼吸の仕方も習ったが、頭が混乱して思い出せない。だが、周りには他の人がいない。私が何とかしなければいけない。
「落ちつけ。まず気道確保だ。寝かせて顎を上に上げさせろ」
「う、うん」
「鼻をつまめ。お前のじゃない、こいつのだ。それから口に一回ゆっくり息を吹き込め。なに躊躇ってんだ」
 フコーはよどみなく私に指示を出した。私は必死でそれに従った。
 やがて救急車が来て、私は救急隊員に状況を説明し、女性は運ばれていった。
 その日の夜、運ばれていった女性が無事回復したと連絡をもらった。
 私はおよそ今まで、自分が価値のあることをしたと思えたことがなかった。生きているだけで価値がある、なんていう言葉を見ても、まったく納得できなかった。何をやってもトロいし、うまくいかないし、根気もない。私という人間の歩いた後には、間違った文字列だけがだらだらと残されているような気がしていた。
 でも、今日、私は人を助けたのだ。フコーのおかげで。フコーがいなかったら、私は適切な処置ができなかった。フコーが人の命を救ったのだ。私のことを助けるだけじゃなく、他人の命まで。フコーが何者で、一体なぜ現れたのか、よく分からない。だが、確かに存在する意味があるのだと強く感じた。
 これから生きていくのに、色んな辛いことがあると思う。でも、私は特別だ。フコーがいる。だから、やっていけると思う。


オーナー:takatei

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