名前:漆口ふたえの個人的な体験
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:4
剣技:
 ・召喚剣<0/6/0/2/高高/ハンドウケイセイ>
 ・召喚剣<10/0/0/4/熱熱絶絶/トウソウガンボウ>
 ・召喚剣<5/0/0/4/熱絶衝衝熱/ドウイツシ>
 ・召喚剣<20/0/1/2/死盾護/タイコウ>
 ・召喚剣<5/0/0/2/魔魔魔魔魔魔魔/オキカエ>
 ・召喚剣<5/1/0/4/熱熱衝衝>
 ・召喚剣<5/0/0/3/鏡鏡鏡鏡鏡鏡/ジコトウエイ>
 ・召喚剣<25/0/0/2/死回4斬/トウカイ>

設定:
9.
 日曜午後八時のみみずく書店は、あまり人がいなかった。近所に大きな本屋ができて、客をそちらに取られてしまったのだ。確かに向こうの方が品ぞろえは圧倒的だし、見やすいし、椅子なんかが設置してあって本の立ち読みも許されている。だが私は、昔から利用しているこのみみずく書店に愛着があり、できるだけここを使うことにしていた。
「これと……こっちも買っちゃおうかな」
 私は数冊の文庫本を手に抱えていた。
「偏った趣味だな」
「同じ作家なんだからそりゃ偏るって」
「いやそれだけでなく」
「……意味は分かるけど」
 私が買おうとしている作家は、恋愛小説家だった。それも、女性同士の同性愛ばかりを描いている作家だ。あとがきによれば作家本人もレズビアンらしいというから、気合が入っている。
 だがこの作家の本も、しばらく読んでいなかった。姫宮のせいで、恋愛に関することが全部わずらわしく感じられていたからだ。しかし、なんだか吹っ切れた今は、反動で無性にこの作家の本が読みたくなっていた。
「いいじゃない、面白いんだから」
「好きなのは構わんが」
 私がこの作家を好きなのは、心理描写が激しく濃密だからだ。ビアンであるというのは付加的な要素にすぎない、と思っていた。フコーが、
「まあお前、同性愛のケがあるからな」
 などと言うまでは。
「な、なな何言ってんの!?」
 思わず声が出た。他の客や店主に妙な目を向けられる。慌てて顔を伏せ、物陰に移動しながら内心でフコーに抗議する。
(私がビアンだっていうの!?)
「そのケはあるだろ。今だって、わざわざネットでその手の用語集なんかを見て知った、レズじゃなくビアンっつー言葉を使ってるしなあ」
(レズって言葉が侮蔑的だって書いてあったから……)
「そもそもその手の用語集を調べてる時点でなあ」
(そ、それは、この作家の本で興味を持ったからで、別に私のセクシャリティとは直結しないでしょうが! それともあの用語集調べる人全員同性愛者だとでもいうわけ?)
「そこまで否定するなら言わせてもらうが」
 フコーは腕を組んで一呼吸ためて、言い放った。
「お前、三日前に九島に抱きしめられた時、あんだけ深刻に泣いてたくせに、頭の隅っこでいい匂いだなあとか胸大きいなあとかあまつさえ気持ちいいなあとか考えてドキドキしてたろ」
「!」
 私は自分の顔が一気に紅潮するのが分かった。また大声を出しそうになって、何とか口を噤む。
(ああああんたあの時いなかったじゃない!!)
「いなくても分かるんだよ。ついでに言えば昨日の女にマウストゥマウスで人工呼吸する時もドキドキしてたし、おまけにこれが九島だったらとか考えてたな」
 こいつの口はここで封じなければならない。私はフコーに素早く手を伸ばした。しかしフコーはひらりとそれをかわし、手の届かない高さに飛んで行った。
「別に俺はそれが悪いなんて言ってるわけじゃねーよ。ただ、それならそうと自覚しといた方が楽だと思っただけでだな」
(うるさい!)
 私はフコーを無視して、本を抱えてレジへ向かった。会計をしている時、店主が妙に私の顔を見ているような気がした。もしかして今のフコーとの会話が伝わったのだろうか? まさかそんなことはないとは思うが、店主の表情が妙に気になった。後ろからフコーが何か言ってくるし、他の客も気になる。ってみみずく書店を後にした。
 涼しい春の夜気の中を速足で歩く。周囲の色々な物が、私を囃し立てているように感じられて嫌だった。しかしそれでも、しばらく歩いていると頭が冷えてくる。後ろからヒョロヒョロついてくるフコーに声をかけた。
「……ねえ。本当に、私って……そうなのかな」
「今まで俺が間違ったことを言ったか?」
 フコーは自信満々にそう言った。確かに、いままではそうだった。フコーの言うことは的確だった。私が自分でも気づいていない自分のことを言い当ててきた。私のことなら何だって知られている気がする。それなら、今回も?
「で、でも、ただ好奇心からの興味があるだけみたいな」
「お前はガチだと思うぞ」
 断言される。こいつは私の何を知ってるんだ。
「……私が女の子が好きだとしたら、好きな相手って、やっぱり」
 言葉にするのは躊躇われて、一瞬言葉を切った。しかしフコーには言われたくなかったから、一息だけ吸って言った。
「九島さん、かな」
「他にいないだろうなあ」
 妙にしみじみとフコーは言う。私は冷えてきていた頬がまた急速に熱くなるのを感じていた。
 まさか私が。百合とかビアンとかサフィズムとかそんな。孫を待ち望んでるだろう両親になんて言えば。いや言う必要があるのかこんなこと。それより九島さんになんて言えば。いやいやそれこそ言う必要があるのか。言ったらどうなる?
「九島と喧嘩になったきっかけのあの台詞がこの伏線だったんだな」
 伏線っていうかあれじゃ冗談にかこつけて欲求を漏らしてたようなもんじゃないか。恥ずかしい、なんて恥ずかしいことをしたんだ私は。でもその冗談に九島さんは怒ってしまった。ということは私が本気で好きですと言っても怒ってしまうのか。違う違う、怒ったのは私が変な誤魔化し方としてあれを選択したからであって、真面目に告白すれば受け入れてくれる……わけあるか同性愛だぞ何考えてんだ。でもどうだろう、抱きしめてくれたし優しくしてくれたし九島さんもまんざらではないという可能性も。九島さんのことだから同性愛に変な偏見なんて持ってないだろうし……。むしろ九島さんが恋愛の話が苦手なのってそっちのケがあって悩んでるからみたいなそんなこともありえたりなんか。
「都合のいい方向に思考が曲がってきたな」
 都合がいいか、やっぱ都合がいいか、現実はそうそううまくいかないよね。でも、駄目だとしたら、私はどうしたらいいんだろう。この思いはどうしたら……ってこの思いってどの思いだ認めちゃっていいのか。でもフコーも言ってるし。いやでも、ええと。その。九島さんとは。
「どうすんだよ」
「……と、友達から始めよう!」
「あぁ?」
「友情であれ慕情であれ、焦ることはないじゃない。もう既に友達なんだし……これからゆっくり考えていけば……」
「つまり現状維持かよ。チキンチキン」
「うっさいな! あんな醜態見せた後だから私もあんたも勘違いしてるだけって可能性もあるでしょうが! 少なくとも明日九島さんに会ってから改めて考えるべき!」
 しかし、私のこの考えは実現しないことになる。
 ちょうどこの頃の時間だったらしい。
 九島さんが車にはねられたのは。


オーナー:takatei

評価数:4
(suika)(asuroma)(clown)(clown)


百合厨歓喜! (suika)(03/18 03時42分05秒)

盛り上がってまいりました (asuroma)(03/19 12時11分14秒)

百合厨→ (clown)(03/30 03時56分11秒)