名前:No.002の場合 
HP :5 
攻撃力:0 
防御力:0 
素早さ:2 
剣技: 
 ・召喚剣<5/1/0/4/熱熱斬斬>  ・召喚剣<10/0/0/3/速熱護衝絶>  ・裏切書簡
 設定: 
人間には二種類ある、支配する側とされる側だ。 
 
いつものように喫茶店へ行くと、いつものように彼はいた。 
私は決まったとおりに反対側に座り、オーダーを通すことなく、彼と対面した。 
「仕事の方はどうだ?」 
ここまで、いつも全く変わらない流れ。寸分の狂いなく配列された運命。 
私もまた、それに従う。 
「上々です、いつも通り」 
それはよかった、と目も合わさず彼は外を走る浮遊駆動車(フロートカー)の列へと視線を送った。 
「・・・今度はこれだ」 
彼は目をこちらに向けることなく、置いてあった大判の茶封筒を一枚こちらに寄越した。 
私はそれを受け取る。今、中身は見ない。外に出てから見る。そういう決まりだ。 
恐らく、いつもと同じように"これ"に場所が指定されているのだろう。私の仕事をする場所が。 
私はこの後、無言で立ち去り、外へ行く。それが望まれた道だ。 
「すいません」 
運命の車輪を外したのは私の一声だった。彼がこちらに視線を戻す。 
「これに何の意味があるんですか」 
私は、ずっと、ずっと前から思っていた疑問をついに口に出した。 
これ、とは勿論今渡された仕事のことだ。 
彼は片側の眉毛をくっと上げて、怪訝な顔をして見せた。 
「これ、とは?」 
案の定、とぼけられる。 
「今受け取ったモノです、ひいては今まで私がいってきたこと、その全てです」 
ふん、と彼は少しソファへと持たれ、胸をこちらに張った。 
「その質問に何の意味が?」 
「意味は、私の疑念を振りほどくことで、より効率的な仕事が可能になるでしょう」 
「私はボスに、お前に仕事を与えろ、とだけ言われている。さらに、その言い分だが、真実を知ったお前が仕事の効率を低下させる可能性だってあるわけだ。最悪、実行不可能にだってなりうる」 
「やはり、あれはそういうことなんですか」 
「・・・ナユタ」 
彼は、入社以来、幾許かぶりに私の名前を呼んだ。合わせてめつきがスッと細くなる。まるで鷹のように。 
「・・・はい」 
両肘をテーブルへと預け、彼は手を組んで眼だけを私に意識させた。 
「いいか、私たちの役割は、ボスの手足となることだ。言うなればボスはブレイン、我らはボディだ。ブレインの考えていることを疑うパーツは、欠陥品だと思わないか?」 
「それなら、何故私をあの牢から解放したのですか。純粋なパーツを求めているなら、あなた方もああいう施設を作ればよかったのでは」 
私の言葉を聞くと彼はフーッとため息をついて、額を手にあて顔を伏せた。 
「レプリノシスが世に出てはや20年になる」 
彼は顔を伏せたまま唐突に言葉をついた。 
「人間は最終的な労働力として機械ではなく、人造の人間を選んだ。人権を持たない人造人間。飽く迄、道具にすぎない生命。21世紀も半ばにして、人類は宇宙と深海、さらに、空間に手を伸ばした。労働力はいくらあっても足りない。特に宇宙、あんな場所へは人間は行きたがらないし、行って開拓できるほど連中は優秀な労力をもっていなかった。ついこないだ設立された月面基地もレプリノシスの功績だ。今の人類の文明、それはレプリノシスの労力の結晶といっても過言ではない」 
彼はそう言うと、チン、と近くにあるボタンを叩いた。それと同時にわざと水の入った手前のコップを横に倒す。 
水がテーブル一面に広がりゆく、一方でボタンの傍にある四角い映写版から小人のようなウェイトレスの立体像が現れお辞儀をした。 
『ご注文をお伺いします』 
「すまない、水をこぼしてしまった。拭きたいがナフキンが足りないので持ってきて欲しい」 
レストラン用に仕立てられた人工AIがテーブルの温度、一連の状況を読み取り僅かに思考する。 
自らの処理が出来る注文のキャパシティを超えていると判断したそれは『従業員に取り次ぎますのでしばらくお待ちください』とお辞儀をして消えた。 
従業員を待つ間、彼は再びフロートカーの列を眺めはじめた。 
・・・否、それは違った。彼は宙を走るフロートカーを見ているのではなく。 
見ているのはその先にある、立体映像だった。 
初老で小太りの男の顔が大画面で口を動かしている。 
私はその男を知っている。人間側の大統領だ。最も、世間一般に流れている彼が大統領という裏づけは、毎度放映される映像だけであるが。 
私はテーブルの裏にあるケーブルを体内挿入式情報伝達機器(インプラント)の差込口に入れて、その立体映像の情報を検索をした。 
大統領の演説がすぐに見つかり、そのチャンネルを開く。 
この一連の動作は全て私の脳内で完結し映像や個人情報が映像となって外に出ることは無い。 
 
・・・体内挿入式情報伝達機器(インプラント)。人間がWIC(ワールドインターコミュニケーション)を可能にした被造物管理局の発明品。新時代の利器だ。 
これを体内に埋め込み、脳波と連結させることでサーバーと繋がっているケーブルさえあれば何時でも、ありとあらゆる世界を覗き情報を得ることが出来る。この星なら、どこでも。 
 
”被造物管理局は我々に永遠の平和と発展を約束するものであり、人間、レプリノシスの隔てなく、平等な世界を築くためにある。偉大なる兄弟たちよ。団結せよ。我らは争うべきではないのだ。永遠の発展のために!” 
 
それは大統領の所属する人間側最大の組織、被造物管理局の演説であった。 
インプラントにより同じように演説を聞いていたであろう彼は、大統領の言葉にフンと鼻を鳴らした。 
「お待たせいたしました」 
制服を着たウェイトレスがナフキンをきっちり必要な分だけ手にして私たちのテーブルに来た。 
私はウェイトレスを見る。整った顔立ち、流行のアイドルのような。綺麗な白い肌、美しい黒髪、まるで作り物のような・・・いや、真実、彼女は作り物なのだ。 
レプリノシス、生きた人工的な労働力。 
その証拠に彼女には右手にリングをしていた、そして恐らくその覆われた手首の下には認識用のバーコードがあるだろう。 
「お拭きいたします」 
「すまんね」 
彼女はナフキンを手にして、ゆっくりと機械的にテーブルの上のこぼれた水をふいていく。溢れた水がナフキンに吸収され、元のテーブルに戻る。 
私は彼女のその手つきをじっと見ていた。 
窓の外では大統領の演説がまだ続いている。 
拭き終わると、彼女は一礼して店の中へと去っていく。 
「人間は」 
彼女が去ったのを見計らい、彼は一間置いて、ゆっくりと、諭すように口を開いた。 
「人間は、レプリノシスを道具としか思っていない。例えば、今来た彼女を殺した場合は殺人罪ではなく、器物破損だ。強姦した場合も同じ、なぜなら彼女はこの喫茶店の所有物だから。 
全く素晴らしい階級制度じゃないか。レプリノシスにはインプラント手術も受けられない。レプリノシスが人間を上回ることはあってはならない。 
所有者からレプリノシスが逃げ去れば、射殺は放免されている。そして一般的なレプリノシスの寿命は約10年。子供ではなくすでに成体レベルで生産される…遺伝子操作の影響で長く生きて15年だ。人間より優れた能力と外見を持ちながら、その一生は短い。レプリノシスには家族もいなければ、友達もいない。だが、それでも人間は…いや、それだからこそ、人間は我々を道具としてみている。そして、その果てが特殊施設・・・能力開発研究所」 
彼が何気なく発した言葉に私はピクリと反応した。 
「君は自分が今まで何をされてきたか覚えているか?No.002」 
ずん、とその数字が私の上にのしかかる。右手が少し痛んだ気がした。 
「レプリノシスに人権は無い。だから、普通の人間ではできない、ある特殊なことが可能だ」 
「・・・特殊環境下での任務遂行のための能力開発、並びに人体実験」 
私は喉をきりりと締められたかのようにその言葉を吐いた。 
「宇宙環境で生き残るための適応。人間の規格から外れた災害、事故を処理、制御するための新しい人造人間。お前のいた施設だ。No.002。 
お前は、どうする?我々のやっていることが異常、違法だからと言ってどうするつもりだ?結社を出たとしてお前に何が残る。 
社会に適応できない能力と、違法インプラント。人間の家畜にでもなる気か?」 
「それは、脅迫ですか」 
「そうかもしれん、だが、全て事実だ」 
彼はしれっとした顔で私の前にいる。 
「結社の目的は、レプリノシスに人権を与えることだ。それを望んで君も結社に入った。助けた我々にも責任はある。 
だが、結社の目的はただ一つ。それだけだ。君のやってきたことは、人間によってさせられそうになったことと比べればずっと人間らしいことだ」 
人間らしい、その一言が私にはひどく不快だった。 
人間。私は人間ではない。レプリノシス。道具の命。 
私は何のために生きて、生かされているのだろうか。 
この目の前の男が属する組織も、私が元いた施設も同じではないのか。 
牢の外に出ても所詮それはより大きな牢の中なのだ。 
私にはわからなかった、正しいことが。正しい存在が。 
右手を見る、あのバーコードは今は無い。跡形もなく、皮膚移植の後さえなく。 
自由・・・今は自由が、ただ欲しい。 
誰にも咎められることなく、誰に問われることもない自由。 
だが、やはりそのためには払うしかないのだ。犠牲を。 
この得体の知れない組織に力を貸すしか。可能性は。 
「・・・ボスに会わせてくれませんか?仕事はします、しかし、私にはわかりません。 
この結社の意味が。勿論、今の人間社会が正しいものだとも思っていません。 
だから、確信が欲しいのです。この組織の頭であるボスが、本当に私達の味方なのか」 
彼は私の言葉を真摯に受け止めているようだった。 
だが、口を開いたかと思えば閉じ、躊躇いの感情がみてとれた。 
「掛け合ってみよう。あの方はわけあって顔をめったに出されぬからな・・・手紙を出して返事を待つ」 
最終的に譲歩は成立した。 
「だが、もし返事がこなかったとして、結社を見限るような真似はして欲しくは無い。 
あの方は特別なのだ」 
「何故そこまで・・・」 
「会えば解る。あの方なら世界を変えられる。そう信じて止まぬからだとしか言えないな」 
俄然興味は沸く。今の人間社会で反社会体制を取ればそれはすぐさま検挙される。 
聞けばこの結社、"Big Brother"は数十年も前から活動しているという。 
只者ではない、多くの人間とレプリシスを従え、末端である私の戸籍やインプラントまで確保するというのは。 
「・・・わかりました。今回の仕事は確実に済ませます、ですが、次はわかりません。その時に、また」 
これ以上の話し合いはない、と思い。私は席を立った。 
大統領の演説も何時の間にか終わっていたらしい。 
私は喫茶店を出て、空を仰いだ。 
青空は無い。天幕は人間が用意した天体スクリーンで覆われている。 
作り物の世界と私に、相応しい景色だと、そう思った。  
オーナー:nitoro
  
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