名前:適当伯シャロロム
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:4
剣技:
 ・裏切書簡
 ・召喚剣<5/0/0/4/速鏡熱衝絶/弑する愛>
 ・召喚剣<20/腰/骨/2/凹面鏡、合わせ鏡、余命三秒、女王命令/琥珀丸>
 ・召喚剣<5/5/0/2/毒毒>
 ・召喚剣<0/3/0/5/高高/スタラ将軍>
 ・召喚剣<40/0/0/1/死/デカセクシス>

設定:
「ウツセミよ、あれはなんだね」
 シャロロムより渡された双眼鏡を覗くと見えたのは、城内より持ち出した攻城兵器を操って、得体の知れない怪人物たちとともにシャロロム領に攻め入ってくる娘・京子だった。
 ウツセミは顔を真っ青にして、思わず手にしていた双眼鏡を取り落とした。というナレーションとともに、自分の真っ青な顔、震える手つきを思い描いた。
 実際には、顔色はよかった(昨日の晩はラーメンを食べていた)し、双眼鏡も落としていなかった。人はなかなか、不測の事態に漫画や演劇のようには振舞えぬものである。人に渡された双眼鏡を落としたら落としたで問題ではあるが、そこまでうろたえている自分を表現できれば心証は悪くないのではないか、とウツセミは考えていた。
「裏切りというのはたいへんなことだ。こちらは減ってあちらは増える。敵が増えただけの場合、もしくは味方が減っただけの場合と比べて、その戦力差差は2倍だ」
 ウツセミに背を向けたままシャロロムが語る。
 適当で知られるシャロロム伯がいつになく厳密だ。ウツセミは覚悟を決めていた。こうなっては、わざと双眼鏡を落とす演技など何の役にも立つまい。
「ましてや、そなたは裏切りを許さぬとして大量処刑も行っている。それがこの結果……何を意味するかわかるな?」
「覚悟はしており」
「伯爵様。ピッツァができましたぞピッツァが」
 言いかけたところで、料理人がやってきた。執事が呼びに来そうなものだが、大方執事も適当なのだろう。
「ピッツァだと? なにがピッツァだピザのくせに」
「ピザかどうかは見ていただければはっきりしましょう、さあ下りてきて御覧なさい。遠きものは音に聞け、近きものは目にも見よ。さらに近きは鼻にて嗅げ、なおも近きはその手に触れて、いまだ足らずば舌にて味わわん……」
 適当伯の適当で文脈を無視した返答にはしばしば人はたじろいでしまうのだが、幼い頃よりともに森に川に遊んだ友でもあるこの料理人は伯爵の扱いを心得ている。歌うように滔々と並べ立てながら、伯爵の背中を押して出て行ってしまった。

 ひとり残されたウツセミは、どこへ行くともなく城下町へさまよい出た。町民のウツセミを見る目は冷たい。かの暗黒政策の結果として当然である。
「……夢も命も、物語も必ず終わります。みなさんが読んだり聞いた話では、神がなぜ世界に死や不幸を残したのか、いろいろに説明がされていると思います。死をよいものだと語る神話まである! お笑い種です。こんなものは詐術に過ぎません。
 もっと簡単に考えましょう。全能なのは神ではなくブレイスヴァなのです。万象の滅びがブレイスヴァの証であり、我々はブレイスヴァの気まぐれと慈悲によって生き延びているに過ぎません。そう考えた方が、慈悲によって命を与えた神が死をももたらすなどというわけのわからない話よりもよほど納得がいくでしょう。
 僕はみなさんに弑する愛を伝えるために来ました。みなさんは必ず死にます。正確に言うと、必ず弑されます。みんなに、その覚悟を持って毎日をよく生きてほしい。どんな覚悟を持っていてもブレイスヴァはその覚悟を打ち砕いてきますが、それはそれとして……」
 ウツセミは公園の片隅に腰を下ろし、このよそから来た奇妙な生き物の演説を聞いていた。以下はウツセミの頭の中で想像再生された地の文と会話である。
 ウツセミはこの演説を耳にすると、「弑する愛」のところを聞いて飛び掛り、人だかりをかき分けてこの生き物の胸ぐらを掴んだ。
「お前のせいだ、お前のせいで娘は……」
 血走った目で、息荒くウツセミは詰め寄った。周りの人間が引き剥がそうとしたが、普段のウツセミからは想像もつかない力で抵抗した。いや、抵抗というよりも岩のようにまったく動じなかったのだ。
「お前みたいなやつが娘に変な愛を吹き込んだせいで、」
 ウツセミの殴打が生き物を襲う。いや、襲ったのはやっぱりなしで生き物が返答する。
「娘さんに何があったのかはわかりません。いったい何があったのですか」
「前にやってきた商人が、娘に血の愛だかなんだかを吹き込んだんだ。そのせいで、娘は妙に興奮して戦場に行った。無事帰ってきたが、その血の愛が原因で部屋に引きこもってしまった。私にはあの子が何を考えているのかさっぱりわからなくなった。そうして家庭のことから目をそらしているうちに、あの子は私を置いてどこぞの得体の知れない国に寝返ってしまったのだ。私は処刑はまぬかれないだろう。あるいは逃げるしかない。しかし、伯爵はもはや私を許しはしないだろう。家族を連れて逃げようとすればたちまちに捕らえられよう。すべてを捨ててこっそり逃げるか、しかしそれでは残された家族に迷惑がかかる……」
 これはウツセミが問題に陥ったときに行う思考の整理法のひとつであり、このように頭の中に自分と聞き役を設定し、対話形式で自分の置かれている状況をまとめるのだ。
 ウツセミは、フィクションの中に現れる激情型の人間になれたらどんなに楽だろうと考える。私は今、この無関係なことが明らかな生き物に八つ当たりをしたいのだ。八つ当たりをすることによって、娘の裏切りに動揺した自分の心理を表現したいのだ。そのような目に見える動揺を表現していれば、それこそ心から娘を愛している証であり、そうならないのは自分で思っているほど娘を大事に思っていないからのように感じられ、その気まずさから逃れたいのだ。
 しかし、そのようなことはできるはずがない。ウツセミは人狼で負けた相手をカス呼ばわりするところを除けば基本的に善良な人物であり、分別もあるのだ。
 密告体制時に処刑されたとされている人間は実は全員生きている。処刑を目撃した人間はいない。伯爵にも真相は明かさず、ウツセミの独断である場所にかくまってある。恐怖により裏切りを防ぐための擬装である。無実の人間を殺害するほどの度胸はウツセミにはなかった。
 この事実を明らかにすれば、自分への悪印象も軽減できよう。しかし、それは同時に裏切りへの抑止力が失われることも意味する。戦争が終わるまで、この秘密は守りたかった。かといって、自分が死んでしまえばいずれあの中から誰かが抜け出し、真相を語ってしまうだろう。

 ウツセミが頭を悩ませているころ、シャロロムはウツセミを探していた。「それがこの結果……何を意味するかわかるな?」の続き、「お前も相当な適当者だな」を言いたかったのである。


オーナー:niv

評価数:2
(suika)(heterodyne)


琥珀丸のくだりもそうだったけど、人狼的思考法が巧みに表現されている。
ウツセミさんメタとして完璧 (heterodyne)(06/18 13時00分35秒)