名前:The Storm Bringer
HP :0
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:3
剣技:
 ・越死剣
 ・加速剣
 ・加速剣
 ・加速剣
 ・跳速剣
 ・跳速剣
 ・超熱剣
 ・超熱剣
 ・超熱剣
 ・超熱剣
 ・超熱剣
 ・超熱剣
 ・舞踏剣

設定:
アンセムスはとにかく不幸だった。
商館で暮らす両親の御曹司として生まれた彼は、裕福な人生を約束されているはずだった。
だが、彼が生まれた年にその商館が火災。一夜にして財産の殆どを失う。
母は娼婦に身を落とし、父は酒で堕落した。
愛は移ろいやすいもの。産まれた時は皆が喜んだが、富を失った後に両親が見せた顔は侮蔑と嫌悪に塗れた顔だった。

アンセムスは両手に何も持たずに育った。

路地裏で小鳥を育てれば、何時の間にか誰かに小鳥の首を折られた。
小銭を稼げば、その日の内に落とすか、街のごろつきに剥奪された。
道を歩けば誰かが彼の足をひっかけ、休もうとすれば誰かが彼の椅子を取り上げた。
アンセムスは不幸だった。全てのタイミングが悪かった。
操作不可能な圧倒的な外部からの恣意性がいつも彼を拒んだ。
この子は産まれてくるべきではなかった、と告げるように。
やがてアンセムスは失語症を患った。悲惨な事件。語られるべきではない事件によって。
言葉を喋れないペナルティでアンセムスはより不幸になった。
成長して相変わらず苦しい日々を送っていたアンセムスだが、ある日、両親が痴情のもつれで死んだ。
涙は出なかった。その死は乾いていた。
ただ、残された我が身と腹違いの妹だけは、なんとか守らなければならないと思った。
以来、アンセムスはけして己の不幸に屈することはなくなった。
守るべきものはこの身と妹のみ。妹に母と同じ道を送らせぬように努力した。誠を尽くした。
障害は己の手で排除した。手が血に塗れ、心が削れるたびに彼は金を手にした。
必要なものは金だけだった。アンセムスは他者への配慮や、弱者への施しを考えなくなっていた。
妹には仕事のことはけして告げなかった。
甲斐甲斐しく自分の世話をする彼女には、真実を伝えられなかった。
もし彼女の前に信頼できる男が現れたらアンセムスは彼に妹を託して、全てを清算するつもりだった。
しかし、大きな仕事を遂げたある日。
雪道の山道を駆ける貴族の馬車を襲った日。

「アンセムス」
血まみれの馬と死体が横たわる傍で話しかけてきたのは副頭領だった。
アンセムスはまさに今仕事を終えたところで、その手には真っ赤に塗れた剣が握られている。
「この剣をどう思う、さっき馬車の中で見つけた。厳重な箱の中にこれ一本だけしまってあったが、どうだ?業物か?」
目の前に差し出された柄を布で包まれた大剣を見て、アンセルムスは”俺に聞かれてもわからない”と意思を示した。
「そうか。剣の達人に聞けば、少しは解ると思ったが・・・」
彼等の近くではハイエナのように、盗賊たちが馬車と死体に群がり金品を探し、洗いざらい掠め取ろうとしている。
アンセムスは無感情のままその集団を見て、ここは寒いと思っていた。
「ところで」
一幕置いて、再び副頭領より声が掛かる。
「件の話はどうなった?」
件の話。アンセムスは少しばかり焦った。
実は副頭領が妹に恋慕をしていたのだ。ただし、それは本物の愛ではない。
手慰みの愛。箪笥の棚に自分の好きな服を心行くまでコレクションするような、愛と呼ぶには軽い感情。
アンセムスは首を横に振った。
妹だけは汚されたくなった。最後の聖域だった。
応えられない。
その、安っぽい感情に妹を委ねるわけにはいかない、と。
副頭領は短く、そうか、と言った。
「残念だ。おい、連れて来い」
副頭領が仲間の盗賊へと、声を掛けると一人の女性が連れてこられた。
二人の盗賊に腕を預け、引き摺る様に連れてこられた女。

破かれた服、露出した肌、淑女の姿は跡形もなく。
青紫色に腫れた顔、暴行の跡、抵抗の印。そして、生気の無い表情は服従の証。

それは、妹だった。

アンセムスは、何が起きているのか解らなかった。理解できなかった、したくなかった。
ただ、掠れた声で「兄さん」という声が聞こえた時、理性はもう必要なかった。
しかし、動くのが遅かった。
彼が怒りと呼べる感情を抱いたときには、既に腹部にあの大剣が。

ごぅ、と風が吹いて。
大剣の柄を封じていた布が、血飛沫と共に宙に舞った。
「悪いな。ただ運がなかった、そう思ってくれ」
聞こえたのは、目の前の男の声と、妹の悲鳴。

運がなかった。
運が、なかった。
運が、なかった、か。

薄れ行く意識の中で、アンセムスは考えていた。己の過去を。
ただひたすら、うつむいて生きてきた日々を。
自分の人生は何だったのだろう。何を間違えたのだろう。
あの時小銭を落として母に怒られなければもう少しマシな人生だっただろうか?
あの時街を歩るかずに部屋に引きこもって身体が汚れなければもう少しマシな人生だっただろうか?
それとも、今、全てに気づいて副頭領を切り殺せていれば、幸せになれたのだろうか?
この生に何の意味があっただろう。何一つ守れず、何一つ残せず。
この世には、自分が不幸な分だけ幸福な人間がいて、今日も日の下を笑顔で歩いているのだろうか。
自分の生は彼らのために捧げられているのか。

静かに瞼を閉じる。
俺は、これ以上、もう何も失いたくない。

「副頭領、コイツどうします?まだ息がありますよ」
「放っておけ、どうせ何も出来ん。帰るぞ・・・ん・・・んん・・・?」
「どうしました?」
「いや・・・腕が、勝手に、」
副頭領は気づかなかった。大剣が血を啜った時、刀身に紫色のルーン文字が走っていたことに。
彼は思いもしなかっただろう。その大剣が呪われているなどとは。
封印を施されていた大剣は、名を"旧支配者の大剣(ストーム・ブリンガー)"と言った。
「え?」
その剣は持ち主の意思を遮り、副頭領の腕を"使って"仲間を切り捨てた。
「うわぁぁぁぁ!!あぁぁぁ!!」
悲鳴が雪景色を支配する。
その中にはアンセムスの妹の声もあった。
「違う!俺じゃない!」
副頭領は必死で否定した。否定しながら、仲間を斬った。
絶叫に次ぐ絶叫。斬るものも、斬られるものも等しく叫んだ。
「ひっ!くっくるなァ!」
「俺じゃない!俺じゃないんだ!!」
「こ、殺せ!はやくっ、はや・・・あっ」
それが剣の意思だと言わんばかりに。赤い血が白い雪畳に夥しく広がり、汚していく。
副頭領の乱心に仲間たちは逃げ惑い、魂を食う剣は遍く彼等を貪った。皆殺しだった。
その刃は、当然、置き去りにされた妹にも。

一際甲高い悲鳴を聞いた時、アンセムスは目を覚ました。
腹から血を流し、立ち上がった。
足を動かすたびに生命を磨耗し、その眼は完全に開かれ、おぞましい形相で血の河を歩いていた。
視界に生の鼓動はなく、愛する妹は地に伏して血を流していた。真っ赤な血を。
妹の前に、影がある。生を失った影だった。剣に魂を壊された人間。
アンセムスはもう何も解らなかった。何故自分が立っていられるのかも。
きっとどうしようもないくらいに、彼は悲しんでいたのだろう。

放っておけば、この化け物は際限なく悲しみを生むのだ。
だから。
彼はどうしても目の前の化け物を殺さなければならなかった。

腕は動いた。動いてくれた。時間は無い。あと一秒先に、意識を保っていられる自信はない。
最後の呼吸をする。シィッ、と息を細めて筋肉を固める。生が緩まないように、零れないように。
魂と肉に極度の緊張状態を施す。長年培ってきた技術に己の全てを託し、信じる。
ひゅごう、と一際強く風の通り過ぎる音がした。
瞬間、アンセムスの全てが圧縮された銀閃が、雪道を駆けて影を貫いた。
あっけなく影は倒れ、死んだ。
魂の炎を使い果たしたアンセムスは、妹の少し先で膝を突いた。
少しでも彼女の傍で死にたかった。自分に、僅かでも幸福が残されているなら。
しかし、不幸にも妹の死体の近くにはあの忌まわしき大剣が転がっていた。
剣は僅かにだが確かに振動して、脈動を続けていた。文字通りまだ”生きていた”。
恐るべきことに、その大剣は持ち主を失ってなお血を啜ろうとしているのだ。
今まさに妹の死体から流れる血を辿って、その掌に収まろうと。
その様子を見たアンセムスの脳裏に、得体の知れぬ悪寒が走った。
もしやこの悪魔の剣は、死者をも操れるのではないか。
驚愕しながらも、アンセムスは決意した。
彼は最後の力を振り絞り、這いずりながら剣に近づく。
例え、死んだとしても妹を化け物にするわけにはいかない。それは許されざる冒涜だった。

そして。

アンセムスは死を失った。
ストームブリンガーの命ずるまま、命を啜り戦う化け物となった。
だが、不思議なことに彼には未だ意識があり、それはストームブリンガーと呼応できた。
妹を弔うことが出来たのがその証明だった。
剣に意識を支配されているなら、何の区別もなく全てを八つ裂きにしていたはずだ。
剣は彼を利用するつもりなのだろう。
だから、彼が自殺するようなことはしないし、彼が絶望するような真似もしない。
ストームブリンガーはアンセムスの技術がより多くの命を啜る最大の武器であることを知っていた。

剣は、彼を選んだのだ。

何も無かったアンセムスの両手には今、一本の大剣が握られている。


オーナー:nitoro

評価数:1
(takatei)


暴行され描写に若干興奮した。 (takatei)(07/01 03時15分29秒)