名前:適当伯シャロロム
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:6
剣技:
・召喚剣<5/0/0/3/速護熱衝衝衝/帰ってきたスイーツ京子> ・召喚剣<5/0/0/3/速護熱護重重/大砲> ・召喚剣<5/0/0/3/速護熱護重重/足裏健康大砲> ・召喚剣<5/0/0/4/速護熱衝衝/少年はナイフを取る> ・召喚剣<5/0/0/4/速熱熱衝衝/適当伯シャロロム> ・召喚剣<50/0/0/0//ジュライラ> ・召喚剣<10/0/5/1/盾魔/マジックシールド> ・召喚剣<5/0/0/3/魔魔魔鏡鏡魔/本能の愛> ・召喚剣<50/0/0/0//閉塞の五度> ・召喚剣<5/0/0/3/速魔魔魔魔速/フリダ> ・召喚剣<5/0/0/3/速魔魔魔魔速/フリダ> ・召喚剣<20/0/3/1/回2回3/拒絶の壁> ・召喚剣<5/5/0/2/毒毒> ・召喚剣<40/0/0/1/死/デカセクシス> ・召喚剣<5/1/0/4/毒毒毒毒/フィーグムンド> ・裏切書簡 ・裏切書簡
設定:
「おお、ウツセミよ。どこに行っておったのだ。演説が始まってしまうぞ」
『伯爵は料理人の振舞ううどんをすすりながらウツセミにプログラムを差し出した。魔王の演説準備が整うまで、魔王軍は出し物で我々を歓待してくれている。現在の出し物はノナ・シャロロム両軍対抗親睦障害物競走だ』
名言官の筆記スピードは神速の域に達していた。伯爵の名言以外を記録するように用意していたノートに最近では、頭の中に沸き出でるままに文章を書き、現実を紙の上に転写していた。
「現在戦うは魔王軍所属妖怪ダキヌカレ、そのぐんにゃりとした肉体で次々に障害物をかわし中! ぜひぜひそのぐんにゃりした体でダキヌカレたいですぞ〜! 一方我が適当伯軍の選手は料理人、圧倒的に分が悪いッ! が、しかし、ただの人間が障害物競走でここまで魔族と渡り合うその姿は必見! 血気盛んな少年諸君、ダキヌカレクンのいやらしい肉体にばかり目をやっていてはなりませんぞ〜」
一方ウツセミも負けてはいない。かつては筆記に費やしていたその才能を、ナレーションとして活かす。
プログラム上では魔王の演説は障害物競走の後となっている。ウツセミのいない間に様々な出し物や競技が行われていた。競技関係は10対の脚を持つ骸王ニシヂァグ1体vs伯爵側人間10人のムカデ競争など、魔王側に有利な試合が多い。しかし、ほかにもダンスやのど自慢など純粋なエンターテイメントもあり、また、伯爵が「自軍に有利な試合を設定するのは戦の常道」としたこともあり、伯爵軍側は不平等をさして気にしてはいなかった。
「雨天決行……魔王軍のこの戦争にかける意気込みが窺えますわね。あっ、バターのいいにおい」
「ポップコーン、どうですかね。いりませんか。炒りませんか」
プログラムを覗き込んでいたスイーツ京子が振り返ると、骸王ニシヂァグが大量のポップコーンを抱えてうろつきまわっている。
『私は初めてその怖ろしい姿を目の当たりにした。さっきのムカデ競争のときは、目が悪くてあまりよく見えなかったのだ。巨木のごとき巨体、剥き出しの蠢く骨、十対もの脚、鎌のような腕……そして肩からはポップコーンの製造機を吊るし、出来立てのポップコーンを箱につめて売っていた』
戦争には掟があり、いかに敵とはいえ民間人を虐殺したり、ポップコーンを売りにきたところを討つのは許されない。逆にポップコーンの中に毒を入れるようなことをすれば信頼を失い、次回の戦争ではポップコーンの売り上げが激減してしまうだろう。伯爵は骸王から買ったポップコーンをぼりぼりと行きながら、うどんの汁をすすった。まずポップコーンの固い感触を楽しみ、ついでうどんの汁で柔らかくして消化しやすくするのである。
「うまい。さすがは骸王、トウモロコシの骸の扱いにも長けていると見える」
「劇場で食べるポップコーンはうまい。たとえその劇の主役がブレイスヴァであっても」
障害物競走から戻ってきた料理人が汗を拭きながら戻ってきた。
『魔王城周辺で奏でられていたオーケストラが徐々に静かになっている。それとともに、辺りの話し声も収まっていた。いよいよ演説が始まろうとしている。もはや辺りにポップコーンを噛む音は聞こえない。城壁に人影が現れると、静寂を保ったまま一瞬空気がざわついた』
「この沈黙を保った空気の中で、私はソルダスを懐かしく思い出す。いつも空気の読めなかったソルダス。彼がいれば、ここでなおもポップコーンをぼりぼりとやっていたのだろう」
ウツセミが周囲の和を乱さぬよう、小声で述懐する。
テラスの中央にたどり着いた魔王は原稿用紙を取り出し、広げた。と、即座に風がそれを攫って行った。
「なんというハプニング! 魔王の力量が、今、問われる……!」
「いいえ、あれは演出よ。魔王は演説を暗記してきたに違いないわ。伯爵の手を借りた演説文なのだもの、それくらいの器量を見せたいところのはず」
マーガレットを崇める教団のスカウトを受けて旅立った同郷人の後を追って戦乱の中に身を投じたフリダとジュライラだ。ジュライラは『月刊 戦争演説』に2回記事が載ったこともあり、演説への見識はなかなかのものだ。
「左利きの女が世界を作り、我らは生まれた」
『適当伯軍最前線に緊張が走った。伯爵の筋書きにない演説始め――』
「すいひゃせん、あの、目あわううてよく見へないんへすあ、魔ひょうノハは紙あとあさえてあわへへあんなほほいっへうおうにいえあすか」
名言官は傍らの料理人に尋ねた。料理人は3回聞きなおしてから、「そうは見えない」と答えた。名言官は早速続きを書きつける。
『しかし、紙を飛ばされたゆえのうろたえという風にも見えない。魔王はことによると、まったく新しい演説を用意してきたのかもしれない』
「我こそは魔王ノナ。Non-a、<女としてある否定>、<女として受肉した非在>。我こそは創世神龍宮寺宏美の記憶と力を継ぎし者だ。
見よ、伯爵。デクスター王家に安置されていた“赤の宝石”だ。先ほどついに私はこの魔石の秘密を解明した。これこそは創世の神の惨劇の記憶の結晶だ。私は世界の秘められた力を手中に収めた……そして見せてやろう、Nona Gateの真の姿を」
「魔王がその手を大きく広げると、中空に雷光をまとわりつかせた赤い球が現れた! 内側には不気味な闇が蠢き、脈打っている……!」
『興奮のあまり、ウツセミはナレーションを叫んだ。だが、居合わせた誰もそれを攻めはしなかった。ただ、目の前の光景に幻惑されていたのだ』
魔王の手の中で光球は少しずつ薄らいで行き、中心に一冊の書物が次第に姿を現してきた。そして光が消えると、書物は魔王の手の中に納まった。
「これこそはNaga Note、<竜宮音木草>……Nona Gateの正体であり真央だ。
我が名はNon-a、不在なる神の現せ身たるを名に刻みし者! そして我が力のよりどころたるゲートは宇宙の振動の根源にしてただ一つの真なる書物である<竜宮音木草>の名を、その名の中に秘めしものだ。我が勝利と君臨は既に運命づけられている。
闇の眷属よ、饗宴の時は来た! 思う様生き血をすすり肉を食らうがいい、そして伯爵よ、貴様は我が光刃ビヂヘジゾヲヲでもって直々に四度殺してやろう!」
「演説が終わるか終わらないかのうちに魔族は興奮して吠えたけった。私もダキヌカレクンが興奮してるのかと思うとついつい吠えたけってしまいますぞ〜! そのうなり声は周囲を満たし、ワタクシ、ウぅムと唸ってしまう次第」
「すごいね、魔王軍みんな生き生きとしてる」
「ちょっとオカルトっぽいけど、これから戦場に出るって時にはぴったりな名演説だね」
「素晴らしい演説だった。これは私も一演説返さねばなるまい」
『そう呟いて伯爵は立ち上がった。私は繰り出される名言に備え、ペンを握り締めた』
「諸君、うろたえるな!
聞き覚えのある者もいよう、我らが祖国デクスターの名が『右』を意味する言葉『デクストラ』に由来していることを。そして盾国ジニスターは『左』を意味する『シニストラ』が元となっている。魔王の言う通り名前に符号があるならば、魔王はデクスターではなくジニスターを居城としているはずだ。つまるところ、魔王はたまたま現れた符号を元に適当なことを言っているに過ぎぬ。とんだ適当魔王だ。
そして、我が勇士たちよ! スタラ将軍不在の今、このシャロロム=アウタングラッシェ=ヘベリエロンが戦の指揮を取る。諸君はフィトヒット名誉一刀流免許皆伝が率いていることを忘れるな」
『フィトヒット名誉一刀流……伯爵の傍に仕えてきた私も初めて耳にする剣術だ。恐らくは、秘剣と呼ばれるものなのであろう。武術に疎い私も思わず胸が高鳴った。私はこれから、歴史的瞬間に立ち会うのだ』
「ひゃああ〜、このウツセミ、伯爵様がお若い頃から仕えてまいりましたが、フィトヒット名誉一刀流など初めて聞くし、伯爵様が剣術を習っていたこと自体初耳ですぞ〜!
伯爵様のことだからきっと適当な剣術を今考えたに違いありませんぞ〜!」
「それが事実だとすれば、戦争演説史上稀に見る機転……!」
耳ざとく聞きつけたフリダが感動する。フリダは基本的にポジティヴなのだ。
「しかし、ここで皆に言っておかねばならぬことがある。実は今日は剣を忘れてきてしまった」
『盛り上がっていた士気は目に見えて衰えた。剣を借りればよいという問題ではない。門外不出の秘剣である。専用の剣を忘れてしまってはうまく戦えないのに違いあるまい。一方、魔族は大いに笑い、この戦はもらったものとばかりの様子だ。魔城より死霊パドアムフが現れ、そのガス状の体で上空に文字を描いた。“自軍の兵士を落胆させる演説を行ったやつは初めて見た”と読める。私はこんなにも悔しく、心細く感じたことはなかった』
ウツセミの狂笑とウツセミ以外の落胆の中、『月刊戦争演説』をバックナンバーまで取り寄せているジュライラだけが気づいていた。これは専門的に「破壊と再生」と呼ばれる演説の技法だ。
「落胆には及ばぬ!
フィトヒット名誉一刀流は失われた!
だが、たとえ失われても一度得られたものは何度でも得なおすことができる。今こそ、フィトヒット名誉一鞭流の勃興の時だ!」
魔王軍をも上回る唸り声が響き渡った。いちべんりゅうのべんの部分が鞭を指すことを必ずしも理解していたわけではない適当伯軍兵士たちであったが、感動に必ずしも理解は必要ないのである。
「すごいなあ。やっぱライヴって違うね」
「え?」
「すごい、やっぱライヴって違う!」
「そりゃそうだよ。伯爵は戦争の勝利じゃなく、希望というもの一般について語ったんだから」
あまりの圧倒的な歓声に、フリダは大声で言い直さなくてはならなかった。ジュライラの返答もフリダには聞こえていなかったが、フリダは適当に相槌を打った。よくわからないけど、多分ジュライラも何かしら感動の意を表明しているのだろうと勝手に解釈したのだ。ジュライラの方はフリダの様子を見て、聞き取れていないのに適当に流しているのではないか、という疑念を持ったが、すぐに気にしないことにして今の自分の発言を元に『月刊戦争演説』に投稿する記事を頭の中で組み立て始めていた。
「おい、みんな聞いてくれ! ここにいる名言官が今書いていたことだ!」
大歓声の中、ひときわ大きく通る野太い声で料理人が叫んだ。名言官が最近、名言を記録するのみならず、小説仕立てで日記じみたものを書いていることを知っていた料理人は、何かうまいことでも書いているんだろうと、名言官からノートをひったくったのだ。
『大事な戦に剣を忘れたために、適当伯シャロロムをうっかり伯と呼ぶ歴史家もいる。だが、この一事をもってうっかりの名で呼ぶことはあまりに恣意的に過ぎるだろう。かくいう私も、名言官としての着任式の日に、せっかく父に買ってもらったマントを忘れていったものだ』
次第に料理人の声が途切れ途切れになっていく。何を書いてあるのか要点がわからず、このまま読んでいいものか困ってしまったのである。
「名言官よ、こいつは一体何を書いてあるのだ」
「そえあえすね、わあくひもいふか一はつの本をひははめようと思っえまひて、そのほう稿であうわけです」
「いつか書こうと思う一冊の本?」
「ほうへす、ほへえおそらうはほんな風にあうのあろうという予ほくをまいえてうん章にひへうんです」
「いや、要点だけ喋ってくれ。これはこれから書こうと思う本のことなんだな?」
「ほうあいあす」
「聞いたか、みんな! 名言官は、まだ実現していない未来のことを書いていた! 伯爵の演説は俺たちに未来を見せてくれる!」
「ひ、ひあ〜、あんまりと言えばあんまりな話のまとめっぷりですぞ〜。そもそも名言官が本当のところ何を言っていたのか、このウツセミとんとわからんぱらりのぷうですぞ〜」
だが、その時傍らのスイーツ京子が間髪入れずに立ち上がり、拳を振り上げた。
「未来伯万歳! 未来伯領に栄光あれ!」
すると京子を中心に未来伯コールが大怒号となって響き渡った。
そもそもの名言官の文章から未来への繋がりが不明瞭なのに加えて名言官の発音がまったく不明瞭なため、フリダはこれを「味蕾伯」だと思った。「なんかうまいこと言ってる伯爵」という意味にしか解釈できないので何かしら捉え違いをしているのを自覚していたが、場の雰囲気に乗ることにした。フリダはいつだってポジティヴなのだ。ジュライラの隣にいた竜人フィーグムントは、「ミダイ」と聞き間違えていた。多分これは「未代伯」であり、未代という「前代未聞」のような意味の言葉があるのだろうとフィーグムントは考え、大いに伯爵を称えた。ジュライラは未来伯と最初聞こえたような気がしたのだが、隣でフィーグムントがあまりにも大声で「未代伯」とコールするので、よくわからないながらも「ミダイ伯」と合わせることにした。さらに後ろの方にいた適当伯領出身のフリダ=アンジロッスはもはや周りの合唱を聞き取ることができず、「がっせー」や「バッチコイ」のような、何かそういう掛け声なのだろうと解釈して「ダイハク万歳」と声を張り上げていた。それに影響されてさらに後ろの方では「ダイハツアンザイ」になってしまっているものもいた。しかし、それでもまだ名言官の「いあいしゃふあんしぇー」に比べれば周囲との調和を保っていた。
死霊パドアムフは苦々しく思いながらも、宙に新たに「だが、ここまで落胆した自軍をこんなにも高揚させた演説を見たのも初めてだ」と書き記した。パドアムフは根がまじめなのである。客観的に優れているならば素直に称えなければならぬという信念がこの死霊にはあった。
料理人が「娘さんもずいぶん適当になりましたな」とウツセミに微笑みかける。
ちょうどその時、ひとりの少年がナイフを高く掲げ、大声で叫んだ。周囲は一時、未来伯コールをやめて少年の宣誓に耳を傾けた。しかし、少年特有の高い声でありながら、周囲の音圧に負けないように低く重い声を出そうとしたため、何を言っているのかまったくわからなかった。
「いいぞ! その通りだ!」
料理人が大声で賛同すると、周りにいた誰もが同調して少年を称えた。未来伯コールに未来少年コールが入り混じり、少年は照れ笑いをしながら合唱の輪に加わった。
「彼は何て言ってたんですぞー?」
「いや、知らん」
「まったく誰も彼もが適当だ。
しかし、こう適当でなくては先ほどの落胆からの素早い立ち直りはなかったろう。もしかすると、伯爵はこのような時が来るのを見据えて、領民を適当に教化していたのではないか。いや、そうではあるまい」
さすがに自分の言っていることが適当すぎると反省したウツセミは自ら反語で文を閉じた。
誰もがめいめいなことを考え、心はばらばらだった。
しかし、気持ちは一つだった――打倒、魔王ノナ!
オーナー:niv
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