名前:漢
HP :105
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:0
剣技:
 ・

設定:
前:http://stara.mydns.jp/unit.php?vote=true&id=5053,

(この文章は2005年10月頃に作成されました)

『コノサキ』

朝、目が醒める。霞んだ視界が明るさを取り戻す。 眠気に打ち克って隣を見やると、そこにいるのはたまこ。
いや、いるような感覚があるだけ。たまこはもう終わって しまった。半年以上も使いつづけていた電池は遂に切れ、 それは特殊な電池らしく替わりのものはない。ちっぽけな ディスプレイは永遠に白く、もう「おなか」を満たす事も、 「ごきげん」を取ることもできない。二度とたまこを見る 事は適わない。無言で着替え、簡単に朝食を食べて、大学 へ向かう。


…僕はたまこを侵す者。例え物語が終わっても僕の妄想は 終わらない。新しい物語を自ら紡ぐ事で、空想物は幾ら でも生き続けることが出来る。それはたまこも例外じゃない。 だが僕が紡ぐ新しい空想は当初の生を外れ、語り部である 僕の都合の良いような生に塗り替えられている。僕が語れば語るほど、 たまこの人格は、結末は、魂は変わっていく。汚されていく。
僕はそれを知っている。知っていて尚語りつづけている。 歪んでいると思う、でもこれは愛だとも思う。誰が何と 言おうと、こうやっていこうと決めたんだ。 停止しているはずのたまこが、こんなにも近くに感じる。 存在していないのに、存在している。恋人のように僕に 寄り添い、歩いている。



「………何だ、ソレは。」
大学にて。納戸の第一声は酷く曲がった眉と信じられないと いった顔から発された。感の鋭いこいつの事だから、僕の 決意を解っているのだと思う。僕は僕とたまこの事を話す。
納戸は黙って頷きながら、自己完結している僕の話を聞いて いる。

「………うむ、そうか…それで?」
「いや、話はもう終わりさ。僕の隣にはたまこがいる。 僕以外の誰もが見る事のできない、自己完結したたまこが いる。それ以外に何もない。必要ないんだ。」
「……隣に、いる………か。」
納戸は何か複雑な表情をした。

「なぁ、深崎」
暫し考えこんでいた納戸が口を開く。

「その動かなくなった携帯ゲームの方のたまこ、 まだ持っているのか?」
「うん」
「少し……いや、一日でいい。貸してくれないか?  電池交換くらいは出来ると思う。上手くいけばプログラム 解析をしてその中身を知る事も可能だ。…どうだろうか?」

たまに納戸はこういう事を言う。壊れた機械を見つけると、 喜んで回収しに行き、分解し、中身を知る。彼曰く趣味だそうで、 よく解らないモノを見つけると知的好奇心が働き、追及し、 解明せずにはいられない性分らしい。その情熱が(彼曰く追及 しても追求しても深まるばかりの)萌えなんかにも行って しまったから、僕との関係もあるのだが。

…たまこを渡す。その内部を解析する。電池交換をし、 たまこが蘇る。彼女が元々持っていたもの、僕が語る 偽りのそれとは違う、彼女の本当の”コノサキ”が 解るかもしれない…。

「…いや、いい。あげるよ。返してさえしてくれなくて いい。ソレは、もう僕には必要のない物だから。」
「ム、悪いな。何か解ったら連絡する。」
「それも別にいいよ。もうソレには興味がない。」
「そうか…」

「あのな、深崎」
「ん?」
「お前のソレ……」

「……」
「……いや、何でもない。」

そう言い残し納戸は去っていった。
それ以降、彼が大学に来る事も無かった。 何が言いたかったのか、何があったのかも解らない。


帰り道。たまこを近くに感じつつ、僕は歩く。 納戸の事だから、きっとゲームのたまこを元に戻す事が 出来たはずである。プログラム解析も頭がいいからやって のけるのだろう。彼女の、彼女の産みの親の誰かが意図 した彼女の続き、”コノサキ”がそこにはあったはずだ。 けれど、僕はそれを拒んだ。必要無かった。

居る。感じるんだ。存在しないたまこを。誰かが用意していた ”コノサキ”とは違う、僕のたまこを。例え幻でも偽りでも、 誰にも理解されなくても、ここにはたまこが確かにいる。 かつてたまこが言っていた存在しないはずの”コノサキ”を、 僕は創り続けている。 きっとある。きっとある”コノサキ”を、僕は求め続けている。

次:http://stara.mydns.jp/unit.php?vote=true&id=4928,


オーナー:utsm4

(出典:マーガレット・アンリミテッド・15)

評価数:0