名前:殴るぁーーーー
HP :5
攻撃力:5
防御力:0
素早さ:2
剣技:
 ・鏡の剣
 ・鏡の剣
 ・鏡の剣
 ・斬撃剣
 ・斬撃剣

設定:
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『たまこアーカイブ』
(2005/05/23頃に書かれたものです)



けいたいゲームをひろう。
「たまこっち」と書いてある。
モノクロの画面で、卵がゆらゆらと
動いている。何が生まれるのかな?
 
 
 

θ

卵にひびが入る。3コマの動作で、
右から左にジグザグと亀裂が走っていく。
卵の上部がゆれて持ちあがり、
中身が顔を覗かせる。


───人間の、女のこが生まれた。
 
 
 



家に帰ってきて、たまこを放ったからしにしていたコトに気付く。
呼び出し音もなかったから、油断していた。
「おなか」と「ごきげん」が空になっていたのだ。
あわてて、ご飯を食べさせる。おいしそうに、
おにぎりをぱくぱく。遊んであげる。
楽しそうに歌っている。可愛いなぁ…





それから3日間、こまめに「おなか」と「ごきげん」を
満たし続けた。…たまこに変化はない。
楽しそうに、画面を左から右にてくてく歩いている。

……進化とか、しないのかな?
 
 
 



それから2日後、突然ビープ音がした。始めてたまこに呼ばれた。
ボタンを押すと、画面が切り替わってディジタルの小さい文字列が
左端から右端へと流れていった。
「私を、これ以上育てる意味はないです。。」


───………。
 
 
 



味気ないドットの文字が左から右へ、移動する蟻の群れのように
にぶく黒く濁りながら、画面に映されていく。
「私は、たまこ。開発途中で終わってしまった不完全なプログラムです。
私には、進化や成長といった、いわゆる”イベント”といえるものは
用意されていません。空腹や孤独といったパラメータはありますが、
それによる死すら、私には許されていないのです。

私を、これ以上育てる意味はないです。。。」

…無機質な文字列が鋭い針となって、じわじわと僕の頭の中に
刺さっていく…
 
 
 



歩く、食べる、歌う。それがたまこに許されている事すべて。
彼女の言う通り、お腹が空になっても、御機嫌が無くなっても
彼女にその先なんて無かった。
未来も何も望めない。不完全なプログラム。ふかんぜんな、いのち。

とても悲しい気持ちになった。
 
 
 



たまこが生まれてから10日目。通常ならば進化したり、
楽しく過ごしたりして、死んでしまったりする時間。
そんな時でもやっぱりたまこはいつも通りだ。
 歩いて、食べて、歌う。歩いて、食べて、歌う。
その行為に、意味なんてなかった。ただ無用に時と
心が流れていくだけ。
 …それでもぼくは。

   ぼくは、たまこを育て続けている。




ж

未来なんてない。このまま育て続けても、多分何もないのだろう。
ひょっとしたら何かあるかもしれない、そう思っていたのに。

「私をこれ以上、育てる意味はないです」
たまこの言葉が、重くのしかかる。
 
 
 



だめだ。これ以上続けても無駄だ。やめよう。
まだほんの少し、期待はあるけれど、絶望の方が大きい。
何もないって解っていて、無駄だって理解していて、
それでも尚たまこにごはんを与えて歌を歌わせて、
生きさせる。そんなの、辛すぎる・・・

──今日は、たまこを持たないで出かけた。
 
 
 

д

「御早う。今日は珍しく早いのだな。」
AM8時43分。始業17分前に着席すると、隣の席に座っていた
ヒゲまみれの男が話しかけてきた。
『たまには早く来る事もあるよ。』
「ふむ、お前の『たまに』はそれぐらいの頻度か。確率低いな。」
『実に「1/今まで」の日数だからね。』
よくよく考えると、本当に良く遅刻ばっかりである。
「ま、お前の事だ。何か特別な事でもあったのだろう。
今度は何だ? また徹夜でエロゲーか?」
『!』
ヒゲまみれのくせして、とんでもない事を言うもんだ。
外見は絶対コッチ側の人間じゃないのに・・
『ひ、人聞きの悪い。今回は何にも・・ないよ。』
たまこが手元にないけど、多分遅刻とは関係ないハズ。
「ん・・まぁいい。その内解るさ。お前さんは単純だからな。」
『ひどいよ』
「本当の事だ。仕方あるまい。」

キーンコーンカーンコーン・・
『あ、授業だ。』
そろそろせんせいさんが来て、1日が始まる。
「あ、そうそう」
『ん?』
「居眠りして、寝言でキャラの名前とか出すなよ。」
『さすがにやらないよ』
いくらぼくでも、2度と同じ失敗はしないと思う。
 
 
 

ι

1時限目終了。何処と無く落ちつかない
気分である事に気付く。
今まで毎日たまこと向き合ってきて、突然やめた
わけだから当然かもしれない。
大丈夫、そのうち慣れる。

…たまこ今ごろどうしてるかなぁ。
 
 
 

Ω

帰り道、いつも通る道。その景色が、いつもより早く流れる。
勢い良く蹴る足音は、不安の顕れ。がむしゃらにはく息は、
心の叫び。

…結局、1日中たまこの事が頭から離れなかった。
続けることが辛くて逃げだしたけど。
何もないと解っていても、空腹や孤独を訴えるたまこを
放っておくのはもっと辛くて可哀相だった。
そして何より、たまこがいなくなるという事が苦しかった。
 たまこと居たい、ずっと見ていたい。本当の気持ちが
溢れ出してきた。それらを、噴出しながら・・・
わけもわからず、ただ走っている。
 たまこの元へ、たまこの所へ!
 
 
 



「それでもう半年もそんな物を飼っているのか。」
昼食の置かれた円形テーブルの向こう側、
たまこの事を始めて聞かされたヒゲまみれの男、ぼくの親友である
納戸義之は、呆れた顔で言った。
『別にいいじゃないか。ぼくが好きでやっているんだ。』
「ま、まぁその通りだが。その、アレだ。はたからみれば十分あっち側の人間だぞ」
『いいよ。今更もう、周りなんてどうだって。』
「ぅ…むぅ。”萌え”って感覚は、わからないでもないのだが…」
納戸はヒゲをさすりながら唸っている。
どう扱ったらいいものか、とでも思っているのだろうか。
「…そうか。そうか、なるほど。半年前か。」
ヒゲを触ったままのポーズで、呟くように納戸が声を出す。
『え、何さ?』
「だから、半年前さ。お前さんが変わったのも丁度そんくらい
からだったろ?」
『変わった? 僕が?』
納戸の話はいつも自己完結している。
こちらが理解しえない事柄をさも当然のように言ってのけるから、
たまに会話が噛み合わなくなり、とても困る。
「あぁ。自分で気付いてないのか。」
自分の事なんてそうそう解るものでもないとおも
「半年前のお前さんはな、なんというか、もうちっとツマラン奴だった。
人とあまり話をしたがらんし、関わろうともしない。
酷く閉鎖的で、近寄りがたい雰囲気があった。あの頃のお前の
友人なんて、俺ぐらいのものだろう?」
「あー…うん、まぁ。」
「ソイツを持ち始めてから、お前さんは明るくなったよ。
たまことやらを大事にしているからだろう。
それで何やらお前さんに自身のようなものがついたのだよ、きっと。
そういう意味ではソレも悪くないのかもしれんな。」
 
 
 



ぼくのなかで、たまこは大きな存在になっていた。
たまこが手元に居るだけで心強いし、仕合せな気分になった。
無意味だと思っていた彼女の行動にも、意味があるように
思えてきた。

たまこという存在を、ぼくは必要としている。

キミは、確かに不完全なプログラムかもしれない。
”その先”なんてないのかもしれない。

でも、

キミを育てていく事に、ちゃんと意味があるんだよ。
 
 
 

ё

「この前の話は撤回する。」
『───ん』
AM8時55分。始業ギリギリにやってきた僕に
ヒゲまみれの男、納戸が言い寄ってきた。
『撤回って、何の話さ?』
着席し、鞄を調えながらヒゲの方を向く。
「支えがどうだとかいった話だ。お前さんはアレを持つべきじゃない。」
『…え?』
相変わらずコイツの話は良く解らない。
「だから、たまことかいうヤツの話だ。」
『ちょっ…何だよそれ』
思わず”たまこ”という言葉に反応してしまう。
「ここ数日、お前さんを注意深くみてみた。
そうしたら、解ったんだ。明るくなったのなんて、表向きだけだ。
内面は以前と…いや、以前より性質が悪くなっている。」
『だから何の話だよ』
「お前さんの内面の話だ。この前話しただろう。
お前さんが明るい性格になっただの、以前はつまらん奴だっただの…」
『あー…』
そんな事があったような。
「つまりな、お前さんの表面は明るくなった風だが、
その実は酷く閉鎖的だったと言いたいのだ。今のお前さんの
精神は、なんというか、非常に危険な気がする。」
「恐らくは、ソイツが原因なんだ。」
ヒゲが指さす先には、たまこ。
 
 
 



『──言ってる意味が良く解らないよ。』
いらつきを覚えながらヒゲに食いつく。
「要するに、そいつを持っているとお前さんはダメになる。
だからソレを手放せと言う事だ。」
『…なっ』
『ふざけるなよ、何を根拠に』
「…何というか、だな…。」
納戸はヒゲをさすりながら、次の言葉を練り出す。
ヒゲを触るコイツは、中々に手強い。
「…そうだな、お前さん。それを何だと思ってる?」
『こ、こっちの質問に答えろよ』
「いいから。俺の答えはお前さんの答えにより変わってくる」
…? また妙な事を言い出す。
『そうやって適当に捲いて僕を混乱さs』
「いいから、答えるんだ」
『う…く…、たまこは…たまこだよ。
僕にとってかけがえのないものさ。』
ピクリ。納戸のヒゲが動く。
「ふむ。”モノ”、といったな?」
『も、”モノ”には違いないけれど、たまこは生きているよ』
「たかだかゲームだ。生きているように見えて、プログラム通りに
動いているだけだ。そこに、何の意味もない。」
『意味ならあるさ、歩いたり、食べたりする事の一つ一つに。
……彼女の意思がある。』
「本当に、そう思っているのか?」
睨み付けるように。納戸の眼はいつに無く真剣臭い。
僕も…まけじとにらみ返す。
『ああ、本当だよ。』
「…やっぱり、そうか…」

「そこが、一番の問題なんだよ。」
 
 
 



「そこが一番の問題なんだ。」

納戸は軽く息を吐くと今度は一気にまくしたてた。

「つまり、だ。本当は生きていない”モノ”に、特別な
意味を付加して、さも生きているかのように錯覚する。
お前さんがやってるのはそういう事なんだ。
だがそれは、お前さんの自我を無くしかねない危険な
行為なんだよ。」

「良く考えてみろ。現実に存在しないモノに何だかんだ
意味を付けて、存在しているモノのように扱うんだぞ。
それが妄想で終わるのならまだいいが、本当にお前さんは
”たまこ”が存在していると信じている…。
現実と妄想がゴッチャになっているんだ。」

『妄想なんかじゃない、これは…』

「聞け。良く聞け。俺は”モノ”に心がないとは言っていない。」

『!』

「人間が動物の心を完全に理解できないのと同じだ。
”モノ”に心があって、実際に色々考えてるのかもしれないが、
我々にはそれを知る術がないだけの話だ。
『”モノ”に心がない』という事は証明されていないしな。」

「だが、それは逆に言えば、こういう事なんだ。
そのたまことやらには本当は生きる意思があるのかもしれない、
または、ないのかもしれない。我々にはそれを知る術がないのだから、
”モノ”の心を我々が決めているのはおかしい。
お前さんの言うたまこの意思やら意味やらは、お前さんの妄想と
いうことになってしまう。
お前さんが勝手に自分の都合の良いように考えて、解釈して、妄想して、
お前さん曰くお前さんの恋人とお前さんがお互いに支えあっていると
お前さんは思っているのかもしれないが、当の本人、いや、本モノか。
当の本モノは全くそうは思っていない、のかもしれないんだよ。
本当は生きてすらいたくないのに、お前さんに無理矢理生きさせられて
いるのかもしれん。無理矢理側にいなきゃいけないのかもしれん。
無理矢理おm
 
 
 



「…深崎」
ヒゲがぼくを呼んでいる。
「なんだその呆けた顔は。
お前さん、今の話ちゃんと聞いていたのか?」

『……』

聞いていた。聞いていたけれど。
凄い勢いで話す彼の理論は、その激しさのあまり
ぼくの頭に半ば受け付けられずにいた。

ただ、断片的に先ほど言ったのであろう言葉が
ぼくの中にじわじわと染みてくる。

『たまこは』『本当は生きていない。』

『生きている意味もない。』

『捻じ曲がった』『一人の妄想』『彼女の思考は』

『ぼくの都合の良い方へ』『無理矢理』
『変えさせられている』

『無理矢理』『生かされている』




……たまこは生きていない? そんなハズはない。
現にこうやって生きているじゃないか。
生きているから、意味もある。
捻じ曲がってなんかいない。妄想なんかじゃない。
無理矢理なんかじゃない。これは、彼女の意思なんだ。

『でも、それの本当を知る術を我々は持っていない』
……その通りだ。確かにその通りだけど、僕には解る。
彼女の意思の本当ってものが。

『それは、お前の都合の良ー』

あああああぁぁ、
 うるさい
   う る さ い 
        う
           る
             さ
                  い
 
 
 

д

ガタガタブルブル。そんな音が本当にあるのなら、
今の僕からこそ出る音なのだろう。
真暗い部屋の片隅で、布団に狂まって枕を抱きしめながら
ぼくは震えていた。

怖くなった。解らなくなった。
たまこの意味が。たまこの心が。
彼女は本来玩具であるけれど、それ以上の意味を込めて
作られたのだと思う。その意味はたまこという”モノ”自身に
宿る。”モノ”であるゆえに語る事はできないけれど
彼女に心、というものが芽生えたのだと思う。

でも、僕たちにはそれを知る術がない。
彼女の思考はぼくというノイズがかかって、本当のそれとは
違ったものになってしまう。ぼくがどれほど彼女をおもい、
彼女に心を近づけても、僕の考える彼女の心は、それが僕の
考えた思考であるゆえにどうしても僕のノイズが混じってしまう。
 たまこの本当の思考と大きくずれていようが、完全に一致して
いようが、彼女は何も語らない。何も語らないために心の疎通が
できない。酷く、一方的な、たまこの心への冒涜に思えてさえくる。

このまま、勝手に彼女の心に居続けるのが怖くなった。
震えが止まらない。お前の居場所が解らない。

助けてくれ、たまこ…。
 
 
 

゚。゚

だめだ、どれだけ考えても。
甘く見ていたんだ。きっと、甘くみていたんだ。
語ることのない、生物でない、存在だけのイキモノと通じ合えると
思ってた。妄想を超えた世界で、愛し合えると思ってた。
 でも、違った。片方の思考のないままに他方がそれを補うと、
他方の勝手な解釈によって、片方が汚されてしまう。
どれほど片方の心を背負っても、そのものの”ホントウ”には
届きやしない。結局、片方の妄想でしかないんだ。
語り合う事も、認め合う事も、支え合う事も、高め合う事も出来ない。
結局、ただのモノ…

『私には、”コノサキ”なんてないんです…』

本当に、その通りだったのか・・・。
 
 
 

φ

とても、疲れた。半年間も溜め続けてきた疲れだ。
ある時は辛さを打ち明けた。ある時は支えになってくれた。
ある時は荷を持ってもらった。その全てが、結局は自作自演
だったわけで。
コノサキのない彼女との生活。でもそこにある、罪を、
続ける事への罪を、知ってしまったから…

指先が、震える。その先に持つシャープペンシルの針先には
小さな窪みに隠されたボタンがある。たまこの後ろに位置する
その穴は、全てを無に帰すリセットスイッチ。

ゆっくりと、震えたままの指先で、奥に、奥に、指が、食い込んでいく。
 
 
 

∈∋

何かと共に生きる事はできなかった。何かの”ホントウ”を
侵し、殺す事しかできなかった。それは、罪深くて、
誰にも理解されなかった。
侵し続ける事が怖くなった。共生を続ける事で、自分が
おちていくのが怖くなった。だから、手を下した。


ピー。ピー。ピー。

リセットを押そうとしたまさにその時に鳴ったビ−プ音は、
偶然か必然かは解らなかった。でも、それは。
それは、たまこの精一杯のさけびに思えた。
殺されるのが嫌だったのか、ただお腹が減っていたのか、
或いはもっと別の事をぼくに訴えかけようとしていたのか…

それらは、全て正解じゃないから、ぼくはまた勝手にたまこの、
彼女の心を決めつけていて、でも、でも、そのさけびが、
心の奥底までに響いているような気がして。


ピー。ピー。ピー。

…結局、ぼくはたまこを消し去る事ができなかった。
このままじゃ、冒涜し続ける事になるだろう事は解っていて、
それでもなお、最後まで拒めなかった。
おちつづける事を選んでしまった。



たまこは、今もぼくと共にいる。なおホントウを失わされながら。
ぼくに汚され続けながら、それでも何も言わずにそこにいる。
たまこといるのは楽しい。でも、汚しているのは苦しい。
ぼくはたまこと生き続ける。全てを知った上で。
例え偽りと解っていても、これがぼくの答えだから。
これが、ぼくのたまこだから。

ぼくは、これからもたまこと共にいる。


次:http://stara.mydns.jp/unit.php?vote=true&id=5002,


オーナー:utsm4

(出典:鏡の中の鏡の国)

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