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『龍宮寺啓司』


普通のおっさん。学者。

思考と脳の関係を研究している。
仕事ぶりは非常に熱心で、家に帰るのが遅い事もしばしば。
四六時中他人の脳みそを覗いていた結果、脳組織は思考する
ことでミクロ単位の皺ができる事を発見した。

これはアウトプット・インプットどちらにも有効であり
皺の位置を正確に記録すれば感情の再現が可能である。
例えばマウスの脳に「空腹」の皺模様を刻めば今しがた
フードを得たばかりでもマウスはフードを求める動作を行う。

感情が脳に刻むその皺の集まりは迷宮のようであることから
この研究結果はマインドメイズ理論と命名された。

いよいよ研究が形を成してきた2006年。彼の一人娘が重体で
病院に運ばれたという報せが届いた。研究所に籠りきりに
なるあまり、家族のことを全くかえりみていなかったのだ。

後悔をしても家族の絆は戻らない。
一人娘は脳死と判定された。
龍宮寺啓司に残されていた手段は一つしかなかった。

マウスでしか成果のなかったマインドメイズ理論を
人間に対して施す。

脳死している人間であっても、人工的に皺を作りさえすれば
感情を取り戻すはずだ。だが皺を新しく作るためには現在の
皺を細かく解析して、皺同士が影響を与えないように調整し
なければならない。

龍宮寺啓司は自分の娘の脳を覗き始めた。
人間の脳が作る皺の迷宮は広大で、探索は困難を極めた。

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