名前:漆口ふたえの個人的な体験
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:1
剣技:
 ・召喚剣<10/0/0/4/熱熱絶絶/トウソウガンボウ>
 ・召喚剣<20/0/1/2/死盾護/タイコウ>
 ・召喚剣<5/0/0/3/鏡鏡鏡鏡鏡鏡/ジコトウエイ>
 ・召喚剣<25/0/0/2/死回4斬/トウカイ>

設定:
2.
 二年一組九島(くとう)すうこさんは、学年一背が小さいがいつもエネルギーを放射していて、見ていると何だか感心してしまう。成績優秀で社交的、それでいて不謹慎な笑いなんかも解する九島さんに、私は内心敬意を持っていた。ただ一つ九島さんの行動で不思議なのは、私みたいな教室の隅っこがお似合いな奴と友達なことだった。
 その時私たちは、私のクラスである二年四組で、広げた弁当箱ごしに部活について話していた。自分のクラス以外の教室に入り、ましてそこでお昼を食べるなんて私にはちょっと抵抗があるのだが、九島さんはその辺り平気らしい。
「戻ってきてよ。低音が足りなくてキツイんだ。ウルだって楽しかったって言ってたじゃない」
 猫の足跡模様の可愛い箸をふるい、九島さんが熱弁する。
 ウルこと、私、漆口ふたえは昨年度まで、九島さんと同じ合唱部だったのだ。彼女と友達になったのもそれがきっかけと言ってよい。しかし私は、学年が上がるのに合わせて退部していた。
「いやいや、何度も言ったじゃないすか、私にゃ才能がなかったんですよー」
 私はシューマイを突き刺しおどけるが、九島さんは続ける。
「何言ってんの。ウル、いい声してるよ」
 私の声はかなり低い。小さい頃はそれでよくからかわれた。小学校の音楽の授業で歌劇のビデオを観た時など、バスパートが歌い出した途端に「漆口だ!」とクラス中に爆笑されたこともあった。歌手になぞらえたのだから叱るに叱れなかったのだろう、音楽教師の困った顔まで鮮明に覚えている。
 そんな些細なコンプレックスを克服しようという、私にしては記録的に前向きな決意により、高校入学を機に合唱部に入ったのである。実際、遠慮なく声を出せるのは楽しかった。やる気を出させる為のおだてだろうが、ちょっと誉められたりもして、ガラクタと思っていた金屑が宝箱の鍵と分かったような気分すらしたのだ。初めの頃は。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ。やっぱダメだわ。私にアーチストは無理無理」
「何で?」
「いや、単に根気がないってだけ。九島さんから、割と熱心じゃないウチの合唱部。先生も厳しいし。チャランポランな私には荷が重かったんだ」
「……嘘だね。あんな頑張ってたじゃない」
 今日の九島さんはいつになくしつこい。その理由は分かっていた。私の転部先が気に入らないのだ。
 合唱部を辞めた私は、地学部に入っていた。私の高校では全員が何らかのクラブに所属する必要があるのだが、地学部は幽霊クラブの代名詞だった。その幽霊ぶりは徹底しており、勧誘活動はおろかいわゆるクラブ紹介すら行わない。その為、普通の新入生は地学部の存在にすら気付かない。学校生活を送るうちに噂で知り、普通の部活からドロップアウトした者達が籍だけ移していく、という怪しげなクラブである。そこに、今年度春の唯一らしき新入部員として、私が入ったわけだ。
 それを今日まで九島さんに伝えずにきた。きっと何か言われるだろうと思い誤魔化してきたのだが、予想通り合唱部を辞めると伝えた時以上の説得を受けている。
「ねえ、本当にどうしたの。相談……って言葉は何だか重くてあんまり好きじゃないけど、何かあったんでしょ。話してみてよ」
「…………」
 九島さんは本気だ。そして本気の九島さんに対し沈黙を貫けるほど、私は根性が据わっていなかった。
「えっとねえ」
「うん」
 急かす、というほどでもなく、しかし先を促す相槌。九島さんはこういうのがうまいなあと、話しているといつも思わされる。
「……実は、私九島さんに惚れちゃったんだ。」
「!」
 目をむく九島さん。私は目を逸らして一息に続けた。
「そばにいると想いが込み上げてきてさ。でも、あれじゃん、私ら女同士じゃん? そういうのってよくないし、かと言ってこの胸の愛が消えるわけじゃないし、今までみたいに一緒にいたらいつ押し倒しちゃうか分かんないわけ。だから、一緒にいる時間を減らして、この愛をちょっとでも冷まそうと思ったんだ」
「…………」
「とか、そういう理由だったらどうかなって」
「……もういい」
「あ、分かってくれた? いやあ、私も悪いっては思ってるんだけどさあ、」
「もういいって言ったの!」
 合唱で鍛えられた九島さんの怒声はよく通った。
 しんとした教室の中、逸らしていた目をゆっくりと九島さんに戻すと、九島さんは眉を吊り上げて私を睨んでいた。
「もう、ウルなんて知らない!」
 荒っぽく自分の弁当箱を片づけると、九島さんは音を立てて席を立ち、教室を出ていった。
 取り残された私は、周囲からの視線を感じながらため息をついた。
 もう少しやりようがあっただろうか。周囲から向けられる視線の痛みは我慢できるにしても、九島さんを傷つけないやり方が。しかし、この漆口ふたえは、そんな対応を思いつけるほどコミュニケーション能力が高くないのだった。


 いつもに増して居心地の悪い残りの昼休みと午後の授業が終わり、掃除の時間。学校の裏庭を箒で掃きながら、私は九島さんとどうしたらいいか考えていた。
 九島さんと仲直りはしたい。しなければならない。とりあえず私が謝るべきなのは間違いない。けれど仲直りするには手土産が必要だろう。何がいいか。ケーキ? クッキー? 本? CD? 香水?
(そういうもんじゃないだろ)
 そう、九島さんに望まれているのはそういう物ではない。考えるまでもない、私が合唱部を辞めた理由を正直に話せばいいのだ。それで私と九島さんの間の確執は一発解消、私は貴重な友人を失わずにすみ灰色の高校生活を回避できるのでした、めでたしめでたし。でも、そうするわけにはいかない。
(それはなぜか?)
 なぜなら、それでうまくいきうるのは、私と九島さんの間だけだからだ。
「――ちさん。漆口さんっ」
「え?」
 私を呼ぶ声に、背後を振り向いた。
 同じ裏庭掃除当番の女の子が、ごみ袋を突き出して立っていた。やや憮然とした表情になっている。何度も私を呼んでいたのだろうか。こういう表情を向けられるのは慣れているが、昼休みのようなことがあった後だと、責められているかのように感じてしまう。
「向こうの掃除、終わったから」
「あー。お疲れ様」
「それじゃ」
 私がごみ袋を受け取ると、彼女はさっさと踵を返して裏庭から出ていった。ごみ捨て場まで持って行くのは私がやれ、ということらしい。まあ、一緒に行きましょう、などと待たれていても嬉しくない。そんなことになったら、何を話せばいいのか分からず気まずい沈黙が落ちるだけだろう。私はクラスで孤立している。周囲の人間に馴染めないのは昔からだ。それでいいと思っていた。なぜ皆が自然に人と親しくなれるのか、親しくなりたいと思えるかが分からなかった。彼女たちとは決定的に何かが違うのだと思っている。唯一、合唱部の仲間とだけはある程度話せた。けれど。
「どうせ、部活はないもんな」
 そう、もう部活はないから、急いで掃除をする必要はないのだ。かさばる楽譜を持ち歩かなくてもいいのだ。顧問にしごかれて辛い思いをすることもないのだ。コンクール前のストレスで食欲不振にならなくてもいいのだ。私は自由だ。
 ポツリ、と手に雫が落ちた。
「あれ、私泣いてる?」
(……なあんつって)
 こんなことで涙が出るほど私は繊細ではない。空を見上げると、重い色をした雲が垂れこめていた。天気予報では夜から降るという話だったが、早まったらしい。雨に唄う気はない、早く掃除を終わらせよう。
(濡れてブラジャースケスケにして男子どもを悩殺するのもアリじゃね?」
 ありえない。合唱部を辞めて気楽になったのに、何でまたそんな面倒くさくなりそうなことをしなきゃならないんだ。
「恋は若いうちにしとくべきだって言うじゃないか)
 だからって無理に恋をするのはおかしいだろう。
 集めたごみを手早くごみ袋に入れ、私も裏庭を後にした。


オーナー:takatei

評価数:5
(アスロマ)(clown)(suika)(samantha)(Madness)


きゃータカテイの百合だ! 素敵! (clown)(03/03 00時19分26秒)

青春だ (suika)(03/03 00時34分08秒)

こーゆーリアルな百合は好きです (samantha)(03/04 19時48分17秒)