名前:漆口ふたえの個人的な体験
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:2
剣技:
 ・召喚剣<10/0/0/4/熱熱絶絶/トウソウガンボウ>
 ・召喚剣<20/0/1/2/死盾護/タイコウ>
 ・召喚剣<5/0/0/4/熱絶衝衝熱>
 ・召喚剣<25/0/0/2/死回4斬/トウカイ>
 ・召喚剣<5/0/0/3/鏡鏡鏡鏡鏡鏡/ジコトウエイ>

設定:
4.
「やっと見つけたな、俺を」
「え……あ……」
 わけの分からない物を発見した私は、パクパクと間抜けに口を開け閉めした。
 ベッドの枠に腰掛けたそいつは、ぶらぶらと足を揺らしながら話し続けた。
「気付くのが遅いんだよな。学校でも話しかけたのにスルーしやがって。俺ちゃん淋しかったー」
「あ、あんた……」
 私はやっと言葉を発した。
「あんた何?」
「まあそう聞くと思ったけどよ。何だろうな? 俺も自分が分からん。気付いたらお前のそばにいた」
「え、いや……え?」
「俺を見ることができるのも、俺の声が聞こえるのも、今のところはお前だけらしい」
「そんな……」
「俺がどういう存在かはお前が決める必要があるってこったな」
「…………」
 私はそいつをじっと見つめた。そいつは少し居心地悪げに、腰をもぞもぞと動かした。
「……本当に、いるの?」
「いると思ってるが、証明はできねーなあ。我思う故に我ある、はず、としか言えん」
 話しながらそいつは、羽を動かし、ふい、と宙に浮かんだ。私の目の前まで飛んでくる。とても、こんな大きさの物が飛べるほどの勢いで羽ばたいているようには見えなかった。
「色々試したけど、こうやって触れるのも、お前だけだしなあ」
 そいつは、ツン、と私の鼻をつついた。確かにその感触があった。
 私が反射的にのけぞると、そいつはにやりと笑った。
「へへ……いるだろ?」
「……よし。状況を整理しよう」
「おうそうだな、整理するのはいいことだ。俺も協力するぜ」
「あんたちょっと黙ってて」
 そいつは何だか寂しそうにベッドの枠に戻っていったが、構ってはいられない。
 まず、こいつは見える。それは間違いない。右目で見ても左目で見ても、いる。声も、聞こえる。聞こえるって言うか、半ば頭に響くみたいだけど、とにかく分かる。そいつに向けて人刺し指を伸ばす。
「お、握手か?」
 小さな手で私の人差し指に触れてくる。感触が、ある。
「……この目で見たものは、信じざるをえないよね」
「俺の人権を認めるか」
「……人?」
 私のつぶやきに、そいつは無責任な感じで、さぁ、と首を捻った。
「まあ、俺が何にせよ、ここにいるんだからそれを受け入れるべきだな。この俺が見えるなんて、お前は幸せだぜ。話し相手もロクにいないお前に付き合ってやるんだから」
「何で話し相手がいないって知ってるの」
「俺はお前のことなら大体知ってるんだよ」
「えー……」
 私は顔をしかめた。こんな突然現れたよく分からない奴に、プライベートなことまであれこれ知られてるなんて、凄く気持ち悪い。
「で、お前の数少ない話し相手である九島のことはいいのか?」
 そうだ、こんな奴より、貴重な友達であり尊敬相手である九島さんとのことを考えなければ……いや本当にこいつは二の次でいいのか、こんなものが現れた方が大事件じゃなかろうか。
「俺の意見を言わせてもらうなら、やはり説明するべきだと思うね」
 指を振りながらそいつは偉そうに語った。
「九島に気を使うのもいいが、自己満足になってねえか?」
 妖精だか精霊だか霊魂だか分からないが、今までの私の常識からは大きく逸脱している。どうすればいいんだ。
「おいおいおい、聞いてるか? 俺が相談に乗ってやろうっつう幸せを無駄にすんじゃねーぞ」
 そいつはピーピーわめいた。
 ……よし、やはり九島さんのことを先に考えよう。こいつのことは、考えてもしかたがない気がするし、とりあえず害は無さそうだ。けれど九島さんとは、早く関係を修復しないと、このままズルズル縁が遠くなってしまいそうだ。それは絶対に避けたい。
「うん……聞いてる。でも、九島さん、本当に恋愛の話って苦手そうだし」
「それで無理に誤魔化そうとするから、今日みたいなことになるんじゃねーか。だから自己満足だっつーんだよ。浮いた話がナンボのもんだってんだ」
 恋愛の話、浮いた話。そうなのだ。私が合唱部を辞めた理由も、つまるところそれなのだ。


 ある所に、一人の女の子がおりました。女の子は男の子と出会い、恋に落ちました。女の子は男の子にさりげなく近付きます。女の子と男の子の仲は深まっていきました。そして女の子が勇気を出し、自分の想いをはっきり伝えようとする直前。男の子が、悪い魔女に心を奪われていることが分かりました。女の子は、魔女をやっつけるための冒険の旅に出ました。仲間を集め、様々な苦難を乗り越え、女の子はついに魔女を打ち倒すことに成功、最果ての二人は幸せになりました。ハッピーエンド。
 ――とまあ、私が合唱部を辞めた経緯をおとぎ話っぽく説明するなら、そうなる。しかし残念ながら、私の役どころは女の子ではない。悪い魔女だ。
 普通に説明するならば。合唱部の同学年生である女子Aが、同じく合唱部の男子Aを好きになった。しかし男子Aは物好きなことに、はぶかれっ子な私を好きだったらしい。私を邪魔に思った女子Aは、取り巻きと一緒に嫌がらせをし、私はそれが嫌になって退部した、ということになる。
 よくあるといえばよくある話だろうと思う。大人から見れば、高校生らしくて微笑ましい、なんて言ったりもするかもしれない。だが当然、当事者の私からすれば微笑ましさなど欠片も無かった。
「お前被害者だろ」
「そりゃあ、どっちかって言えばそうかもしれないけど」
 妖精もどきと私の会話は続いていた。
「だから遠慮することはないっつの」
「姫宮たちには遠慮する気は無いけどさあ」
 姫宮高乃(ひめみやたかの)というのが女子A、私に嫌がらせをしてくれた中心人物である。
「問題は九島さんだって。大好きな合唱部で、そんなドロドロした、しかも苦手な恋愛のもつれがあったなんて知ったら、凄い悩むよ」
「お前が答えをはぐらかしても悩む。何でお前はそんなに九島に対し気を使うんだ?」
「それは……九島さんは、えー、あー」
 何だか言葉にするのが恥ずかしくて詰まった。
「ほう、大切な友達だから、ねえ」
「え、ちょ」
「言ったろ、大体分かるんだよお前のことは」
「…………」
 理不尽だ。
「大切なのは分かるけどよ。過保護なんじゃね?」
「過保護なんて。別に私は九島さんの保護者じゃ」
「保護者ぶってるって言ってんの。っていうかさ、お前」
 妖精もどきは私の顔をビシリと指差した。こんなにあからさまに指を指されたのは初めてな気がした。
「九島のこと信頼してないんじゃないか」
「!」
 ひどいことを言われた、と思った。けれど心の奥では、痛いことを言われた、とも感じていた。
「苦手な話題から守られ続けられる年でもないだろ。まして恋なんてありふれた話から。今日お前がやったみたいに悪意と一緒に触れられたら怒るだろうが、何があったか真面目に落ち着いて率直に言われたらちゃんと受け止める、受け止められるだろ」
「…………」
 私はすぐに頷いたりはしなかった。けれど、否定することもできない。
 妖精もどきはふらふらと飛び上がると、私に背を向けて勉強机の方へと飛んでいった。話はもう終わり、ということらしい。勝手な奴だ。
「……そう、なのかな」
「俺はそう思うがね」
「…………」
 私は迷い、口をつぐんだ。後から考えれば、心の深いところで、私はどうするか決めていたのだろう。それが表面にまで浮かんでくるには、お風呂を済ませ、パジャマに着替えて、眠りにつく直前までかかったけれど。
 私が日常のあれこれをしている間、妖精もどきはフラフラと近くを飛んでいたり、どこかに消えたりしていた。「お、風呂か、よし洗え、ゴシゴシ洗え」みたいなどうでもいいことも言っていた気がするが、よく覚えていない。お風呂場にまで入ってこようとするのは困ったので覚えている。
 ベッドに入り、私は蛍光灯の上で片足立ちをしている妖精もどきに声をかけた。
「ねぇ。……あんたは何で現れたんだろうね」
 妖精もどきは軽い調子で答えた。
「さあ。だが多分、お前が凄く困ってたからじゃないか?」
「私が、困って?」
「だが安心しろ、俺が来たからにはきっちり幸せにしてやるからよ」
「……怪しい」
「なんだと」
「おやすみ」
 妖精もどきはまだ何か言いたげだったが、私はリボンを使ってベッドまで延長してある照明の紐を引っ張り、明かりを消した。妖精もどきが何かどうでもいいことを言っていてうるさかったが、私は九島さんとのことを考えている内に、いつの間にか眠りについた。


オーナー:takatei

評価数:4
(suika)(アスロマ)(elec.)(Madness)


長い (suika)(03/07 00時26分05秒)

読み読み (アスロマ)(03/07 00時29分43秒)