名前:漆口ふたえの個人的な体験
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:3
剣技:
 ・召喚剣<10/0/0/4/熱熱絶絶/トウソウガンボウ>
 ・召喚剣<5/0/0/4/熱絶衝衝熱>
 ・召喚剣<20/0/1/2/死盾護/タイコウ>
 ・召喚剣<5/0/0/2/魔魔魔魔魔魔魔/オキカエ>
 ・召喚剣<5/0/0/3/鏡鏡鏡鏡鏡鏡/ジコトウエイ>
 ・召喚剣<25/0/0/2/死回4斬/トウカイ>

設定:
6.
 そんなこんなで、九島すうこさんとの仲を戻したっぽい私、漆口ふたえ。友達の前でカッコ悪いところ見せようが、よく分からない妖精もどきが見えようが、学校生活は続いていく。
 県内二番手という微妙な位置の進学校である私たちの高校は、テストが頻繁にある。一番の進学校に行けない程度のやる気と能力の生徒達を、なんとかいい大学に行かせるための尻叩きである。
 九島さんと仲直りした翌日の金曜日も、困ったことに実力テストだった。春休みにどれだけ勉強したか――私のようなやる気の無い生徒にとっては、どれだけサボったか、を見るための、新学期早々のテストだ。
 実力テストなんだから無勉でそのまま実力を見せりゃいいんだよ、なんてことを言う生徒もいる。しかしそんなことを言うのは、実力だけで十分高得点を取れる者か、勉強に関して自他共に諦めてしまった者である。中途半端な位置にいる私などは、教師からの圧力を回避するためにそれなりにテストに備えなければならなかった、のだが。
「だー」
 一校時目の数学のテスト用紙を前に、私は小さく呻いていた。分からない。
 昨日は家に帰ったら妙に眠くなってしまい、仮眠のつもりで横になったらそのまま今朝まで寝てしまっていた。精神的に疲れていたということだろう。おかげでテスト勉強を全くしていない。昨日以前はどうかと言えば、部活無しで家に帰るとどうも気持ちが落ち着かず、それを紛らわせるためにパソコンで遊んだり漫画を読んだりお菓子を食べたりして、ろくに勉強できていなかった。
 などと理由を付けてみたところで、学生の本分である勉強をサボっていたことに違いは無い。 
(まいったな)
 基本的な解法がスッポ抜けていて、大問に手も足も出ない。数学が得意なら自分で考えて解法を導き出せるのかもしれないが、私は数学が苦手だった。
(うー……どの要素から式を立てればいいんだっけ……もうやだなあ……)
「式にするのはそれとあれだな」
「ひっ!?」
 突然耳元で声が発せられ、私は悲鳴のような息を漏らした。
 監督教師の視線が私に向く。
「……ヒック。ヒク」
 慌ててしゃっくりのような音を出し、誤魔化す。多分誤魔化せた、と思う。
 答案の盗み見と思われないよう注意しながら声の聞こえた方に視線をやる、私の肩にフコーが乗っかってテスト用紙を指差していた。
「テスト中に声を出すのはカンニングが疑われるぞ」
(誰のせいだと……!)
「まるで俺のせいだとでも言いたげだな」
 フコーはぬけぬけとそんなことを言った。
 そして私は気付く。
(あれ? 私今しゃべってないのに)
「思ったことも伝わるらしいな。俺とお前の絆の深さ故か」
(どこに絆があるって?)
「あるだろ、絆。こうしてピンチに俺が現れるのがその証左よ」
 フコーは私の肩から机に飛び降りた。問題用紙にまで歩いていく。万が一誰かに見えたり聞こえたりするんじゃないかと私は気が気ではなかったが、フコーは堂々としたものだった。
「いいか、こういう問題の場合はだな」
 しゃがんで問題文を指しながら、問題の説明をするフコー。私ははじめ半信半疑だったが、聞いているうちにフコーの解説が授業で聞いたこととほぼ同じだということが分かってきた。それなら、とフコーの説明に沿って答案を書いていくと、書ける。書けるのだ。
(凄い、フコー凄いじゃん!)
「まあな。次いくぞ」
 フコーはその後も、問題の解説を続けた。それを頼りに私は解答用紙を埋めていった。フコーも全てが分かるわけではないらしく百点は無理そうだったが、かなりの高得点を取れそうだという手ごたえがあった。
(サンキュー、フコー!)
 私は心の中でガッツポーズをした。


「他の教科も分かる?」
 数学の試験が終わって、一校時とニ校時の間の休み時間。
 私はトイレの個室でフコーと小声で会話していた。声を出さなくてもいいとは分かったが、何となく心を読み取られるのは気持ちが悪いからだ。ここで会話をして外の人に聞かれる危険はあるのだが。
「他の教科か、大体いけるだろうな」
「やった! さすがフコー!」
「……お前随分現金だな」
「合理的なの」
 言葉に被せて水を流し、用を足したかのように見せかけて個室を出た。
 そのタイミングが、悪かった。
 トイレの入り口から入ってきた姫宮高乃と、目が合った。
「!」
 私は自分の体が強張るのを、屈辱とともに自覚した。私は、姫宮とその取り巻きに泣いて許しを請うほどに負け犬でもない。心が折られてはいない、と思いたい。ただそれでも、さまざまなことをされた記憶が、反射的に私に身構えさせてしまう。
 姫宮も立ち止まって私を見つめている。いや、睨みつけている。
「…………」
 姫宮から、目が逸らせない。目を逸らしたら、何をされるのか分からないと感じてしまう。こんな人目のある場所で変なことはしないはず。しかし、男子トイレで暴行があったと噂がある。もしかして。いやまさかそんな直接的に。もう私を合唱部から追い出すことには成功したんだし。でも。
「おい」
 突然、視界の真ん中にフコーが降ってきた。
「何見つめあってんだ。じっとしてれば何もされないとでも思ってんのか? だからお前はヘタレなんだよ」
 その言葉と、姫宮の顔が隠されたことで、私の体にかけられた麻痺が解けた。
(……分かってる)
 息を吸い、フコーの体を回避するように、横に一歩。そして、トイレの出口に向かい歩いていく。絶対に背中を曲げない。
 一歩一歩姫宮に近付く。足が、体が、重くなる。でも進む。
 真直ぐに姫宮に歩み寄り、横をすり抜けた。その時。
「一人じゃ何もできない癖に」
 姫宮の呟きが背後から聞こえた。ソプラノの声が、タールのような悪意と共に耳に届く。
「オシメでも替えてもらってりゃいいのよ」
 私はカッとした。取り巻きを集めて私に嫌がらせをしたのは、姫宮の方ではないか。しかしそんな怒りの力を借りても、私は声を出すことはできなかった。せめて視線で語ろうと、振り向き、姫宮を睨みつけようとする。が、姫宮はさっさと個室に入ってしまった。
(何なのさ、本当に!)
 私は怒りの向け所がなくてイライラしたが、テストはまだまだ続く。姫宮なんかに関わっているのは馬鹿らしい。教室へ戻ることにした。
「…………」
 フコーは、眼帯のついていない片方だけの目で女子トイレを見つめていた。


オーナー:takatei

評価数:0