名前:漆口ふたえの個人的な体験
HP :5
攻撃力:0
防御力:0
素早さ:4
剣技:
 ・召喚剣<0/6/0/2/高高/ハンドウケイセイ>
 ・召喚剣<10/0/0/4/熱熱絶絶/トウソウガンボウ>
 ・召喚剣<5/0/0/4/熱絶衝衝熱/ドウイツシ>
 ・召喚剣<20/0/1/2/死盾護/タイコウ>
 ・召喚剣<5/0/0/2/魔魔魔魔魔魔魔/オキカエ>
 ・召喚剣<5/1/0/4/熱熱衝衝/ショウカ>
 ・召喚剣<5/0/0/3/鏡鏡鏡鏡鏡鏡/ジコトウエイ>
 ・召喚剣<5/5/0/2/衝衝>
 ・召喚剣<25/0/0/2/死回4斬/トウカイ>

設定:
10.
 月曜日、学校に遅刻ギリギリに登校すると、何となく空気がざわざわしている気がした。ときおり理由もなく周囲の雰囲気が妙に感じられるのは初めてではなかったから、またそれなのかな、困ったな、と思っていた。フコーとの心の中でのくだらない会話もその違和感を打ち消しはせず、むしろなぜかより助長するように感じさせた。
 教師がやってきて、ホームルームが始まった。ある生徒が事故にあった、諸君も気をつけるように、という話をされた。私は、雰囲気がおかしかったのはそのせいか、と思った程度で、完全に他人事として聞き流していた。
 午前中の授業は相も変わらず退屈なものだった。手だけにノートを取らせて、頭の中では九島さんのことを考えていた。
 そして昼休み。普段なら開始五分、授業が遅くなっても十分くらいすれば私の教室にやってくる九島さんが姿を見せない。仕方がないので、弁当を持って九島さんのクラスへと向かおうとした。その途中で、姫宮とその取り巻きたちに出くわした。
「漆口さん」
 姫宮が、目の笑っていない仮初の笑顔で私に声をかけてくる。私はまともに動けない。
「ちょっと付き合ってくれない?」
 そんな。私は四日ぶりに九島さんに会いたいんだ。何でこんな奴らと。
 ちらり、と私は九島さんのクラスの方を見た。姫宮はそれを見逃さなかった。
「あら、もしかして漆口さん知らないの? 親友なのに?」
 姫宮は顔を歪めた。とても嫌な表情だった。私に嫌がらせをしても部を辞めるという言葉を引き出せなかった時の表情、圧倒的優位に立ちながら思い通りにできない苛立ちの表情に似ていた。
 姫宮が私のすぐ前までやってくる。他の誰にも聞こえない囁き声で言う。
「あんたのせいで、九島は車に飛び込んだのよ」
 私はその言葉の意味が数秒つかめなかった。
 分かった瞬間、私は九島さんのクラスに駆けだしていた。
「ちょっと!」
 姫宮たちが声をかけてくるが、それを無視して走った。
 二年三組、二年二組、そして九島さんのクラス二年一組。中に飛び込み、九島さんの席を見る。いない。教室中を見回す。いない。名前も知らず普段なら絶対話しかけられない手近な生徒に対して、九島さんはどうしたのかと聞く。
「え、何? 九島さん? 事故だとかで休みだけど……」
 私は崩れ落ちそうになる足を、壁に手をついて支えた。九島さんが? 何で? どうして?
「姫宮はお前のせいだと言ってたな」
 フコーが言った。そうだ姫宮だ。あいつは何か知っているらしい。聞かなければ。
 二年一組を出る。突然鬼気迫る表情で飛び込んできた私にいくつもの視線が注がれていたが、いつもの様に消えてしまいたくはならなかった。そんなことを思う余裕もなかった。
 教室を出ると、姫宮たちが待ち構えていた。
「嘘じゃないって分かった? じゃあ行きましょう。音楽室に」
 私は姫宮たちに、一見仲のいいグループのように、けれど実は逃げられないように囲まれながら、音楽室に向かった。


 音楽室の鍵は姫宮が持っていた。九島さんほどではないが教師受けのいい姫宮だ、適当な理由を考えれば借りることは簡単なのだろう。
 全員が中に入り、内側から鍵がかけられ、入り口ドアのカーテンが閉められたのを確認して、教師が立つ一段高い場所に立った姫宮が口を開いた。
「漆口。あんたのせいよ」
 姫宮は私を睨みつけてくる。こんな時なのに、私はその視線に体が石になりそうに感じる。フコーを探す。
「固まってないで話を聞け。聞け。いや聞くな。やっぱ聞け。こんな風になるなんて思ってもみなかったな。いや予想できたが。こんなこともあろうかとな」
 フコーも、どこか混乱しているようだ。脈絡がない言葉を並べている。あてにはできない。私はポケットから手を出し、なけなしの勇気で姫宮に聞いた。
「……意味が、分からないんだけど」
「あんたが! 合唱部に戻りたいなんて馬鹿なことを九島に言ったからだっつってんの!」
 姫宮の苛立った声に、私の体が震える。
「おとなしく部を辞めたなら放っといてやろうと思ってたのに。一人じゃ何もできないからって九島を頼るなんてどういうこと? あいつ、あたしの所に来て、恋愛で揉めるなんてくだらないです、部全体のことを考えましょう、漆口に謝って部活復帰を認めてください、だってさ! はぁ?って感じじゃない? 恋愛がくだらないなんてどの口が言ってんのってさ」
 姫宮はまくしたてる。私は理解が追いつかない。
「知ってた? あいつ、中学時代にあたしのダチのカレシを取りやがったの。あの男が友達と付き合ってるって知らずに告白したってのは、まあ空気読めないんだなって許すけどさ。それに男がOKだしたのもあの野郎がクソったれだったから仕方ないけどさ。九島の奴、元々友達が付き合ってたんだって知っても、あの男と別れなかったのよ。最低じゃない? あたしの友達、凄い悩んで苦しんだんだよ。相談とか凄いされたし。あたしが、二股かけるクズ野郎なんて別れろって言っても、それでも好きだとか言ってさあ。なんとか説得して別れさせたけど。その後、なんか九島もあのクソ野郎に散々遊ばれて捨てられたって話だけど、自業自得だよね。そんな奴がさあ、恋愛がくだらないとか言ってくるとか、ホント冗談やめてよねって感じだよ。だから言ってやったの。あたしの友達の恋人を奪ったのは誰でしたっけ、って。それに、あんた自身、部活全体より大事な大事なお友達一人のことを考えてませんか、って。それから」
 姫宮は、私を醜い虫を見るような目で見下ろした。見下した。
「はぶかれてるグズな子と仲良くして優しい自分っていう役割を演じて、自尊心は満たされますか、って」
 私は貧血の時の様に視界が暗く狭まって行くのを感じた。姫宮の声が、遠くなったり近くなったりする。
「そしたら図星だったんでしょうね、逃げてったわ。そのまんま黙ってればよかったのに、何考えたか車に飛び込んだってさ。当てつけっぽくてほんと困るんだけど」
 姫宮は私と違って色々な情報源がある。そこから、普通の事故ではないと知ったのだろう。
「あんたがさあ、変にあたしらを恨んできても嫌だから言うんだけどさあ。ホント、あんたのせいだから。九島に無理なこと言わなきゃよかったのに」
 つまり、それを言いたかったのか。わざわざ。こうやって教えなければ、私は九島さんがただの不運な事故にあったとだけ思っていたかも知れないのに。姫宮たちも本当はショックだったのだろう。自分たちのせいで、という不安。しかしそれをぶつける丁度いいサンドバッグがいた。
「九島みたいな、何でもできるつもりで他人を見下してる奴と、あんたみたいな、何もできないくせに内心で自分は他人とは違うって思ってる奴、お似合いって言えばお似合いだけど。こっちには迷惑かけないでよね」
 ……この辺りで、私の記憶はいったん途切れる。
 断片的に、私が音楽室を出ようとするのを邪魔した取り巻きを殴ったこと、教室でカバンに教科書を詰めたことを、無音の光景として覚えている。
 気が付いた時には、自分の家に帰ってきていた。


オーナー:takatei

評価数:5
(elec.)(piyo)(suika)(asuroma)(clown)


高島津先生やめないで!! (suika)(03/20 00時43分22秒)

重い話だ、読み読み (asuroma)(03/20 23時40分34秒)