名前:【 式龍 】
HP :5
攻撃力:5
防御力:0
素早さ:2
剣技:
 ・絶対剣
 ・高速剣
 ・紅速剣

設定:
 龍の眼に映るべからず。
 龍の声に触れるべからず。

 その四ツ眼は知性に輝き、その旋角はどこまでも猛々しい。彼らは手足を持たないが、蛇のように地を這うことはない。ではどうするのかというと、彼らは背にある孔から幻肢と呼ばれる糸状の組織を自在に伸ばし、翼や脚などの肉体部位を必要に応じて形成するのだ。その変幻自在な姿から、地方では「鵺」とも称される。

 そしてまた、一部の伝承にあるように火の息を吐くこともない。何故ならば、彼らが望めば幻肢が紅蓮の輝きを纏って、うねりながら標的に殺到し、灼熱をもって刺し貫くからである。 

 龍の眼に映るべからず。
 龍の声に触れるべからず。

 だが相手が老龍となれば、話は別である。

 * * *

 龍の命は尽きようとしていた。
 無数の炸裂柵の火矢が鱗の隙間に突き刺さり、夜空を滑空する翼膜は今にも破けそうである。老いて身も意気も衰えた老龍は、真銀の絹を編む材料となる幻肢のために、人間に狩り立てられる運命であった。
 黒々した生命の源が、止め処なく流れ出てゆく。
 傷を塞ぐ力すら残されていないとは、我が身の何と情けないことか。不意のめまいが龍を襲い、もはや羽ばたく胆力もなく、翼は力を失った。幻肢の糸を引きずりながら、龍は谷底に落ちていく。

 地に叩きつけられ、ついに体が動かなくなった。ふと近寄ってくる気配を感じるが、糸の一本も纏める力は残されていない。おのれ人間ども、崇高な死を低俗な物欲で汚すというか。口惜しい。なんと口惜しいことか。
 このまま果てるとしても唯では死なぬ。龍はもはや気迫だけで首をもたげ、せめて牙で一矢報いようと、その巨大な顎(あぎと)をぐらりと開いた。いくら鱗を砕き肉を貫く火矢を撃ち込もうと、この距離ならば息絶える前に多少の道連れを作ることもできよう。一人でも多くを引き裂かんと龍の意識を憎悪が塗りつぶしていき、その眼からは理性の灯が消えてしまったかのようであった。

 だが龍の眼に映ったのは、みすぼらしい着物を着た、まだ幼さ残る少女(ひな)の姿だった。今まさに自らを食い殺そうとする異形の龍を前に、少女は怯える様子もなく立っている。
 あと一息で可細い首を噛み千切ってしまおうかというところで、はっと老龍は我に返った。戸惑いを隠せない龍に対して、少女はためらいがちに、静かな声で口を開いた。

――「…そこに居るのは、どなたですか?」

 どうやら少女は、目が見えなかった。


オーナー:L_D

(出典:マーガレット・ノベラゴラム α)

評価数:3
(mayo)(hosa)(theki)


面白そうな予感。 (hosa)(10/19 02時07分56秒)

こういうシンプルな線のみでしっかりとした神々しさを出せるのはすごいと思います。ストーリーにも期待。というか話うまい。 (theki)(10/19 08時03分10秒)

名前:【 式龍 】
HP :5
攻撃力:5
防御力:0
素早さ:2
剣技:
 ・絶対剣
 ・高速剣
 ・紅速剣

設定:
 龍は去るように言ったが、盲目の少女は聞かなかった。
 周囲に漂う濃密な血の臭いと、そして硬い鱗の手触り。目の前に居るものが人外の存在であることくらい、既に少女も理解し始めていた。しかし少女はそれでも離れようとはしない。一人で谷底をさまよっていた人恋しさか、あまつさえ龍の怪我を気遣って、小さな手を器にして清水を運び、牙の隙間に流し込んだ。
 人間の少女は柴(しば)と名乗った。
 生まれてこのかた十とふたつ、ずっと山の中で暮らしてきた。もとは川辺に捨てられた身寄りのない赤ん坊だったのを、山奥に住む山賊集落の女房に拾われたのだという。目の見えぬ赤子、それも女子(おなご)など育てたところで食い扶持が増えるだけだろうに、山賊頭はまるで我が子のように少女を大事にした。ところが鎧武者たちが集落を焼き討ちにしたので、育ての親も村の知人もみな燃えてしまい、あてもなく谷底を徘徊していたと少女は語った。
 龍は、身の上話など無意味だと跳ね除けた。
 この通り我が命は長くない。お前が何をしようと知ったことではないが、追っ手が来れば巻き添えを食らうことになろう。捕まって人買いにでも売られたくなければ、さっさと離れたほうが身のためだ。
 少女は引き下がらなかった。
 このまま谷をさまよっても、いずれ野たれ死ぬしかありません。それよりあなたの力を貸して欲しい。とと様は悪人だったかもしれませんが、このままでは私は死んでも死に切れないのです。
 龍は自嘲の鼻息を漏らした。もう身体の感覚もないのだ、助けてやることなど出来るわけがない。こうして口を利けるのが不思議なくらいなのだ。見ろ、我が背から延びているのが真銀の糸だ。好きなだけ持って、山を降りるがよい。人里で売りさばけば、しばらく生計に困ることもなかろう。

 少女はなおも反論の口を開けようとしたが、そのとき不吉な笛の音が谷底に響き渡った。追っ手に見つかったのだ。すぐさま火矢を構えた密猟隊に取り囲まれ、龍の首を引き摺り下ろす鎖縄を手に手に持った男たちが、闇の中から龍と少女とを包囲した。
「ほほう、こりゃいい。予想外のおまけが付いたようだ」
 密猟隊の頭らしき男が言った。


オーナー:L_D

(出典:マーガレット・ノベラゴラム α)

評価数:1
(piyo)


名前:【 式龍と雛 】
HP :5
攻撃力:5
防御力:0
素早さ:2
剣技:
 ・高速剣
 ・蟲毒剣
 ・紅速剣
 ・絶対剣

設定:
 小さな少女(ひな)は言った。死んでも死に切れないのです、と。このまま野たれ死ぬとしても、死んでも死に切れない。だから生きたい。だから助けて欲しいと、確かに言った。あなたの力を貸して欲しい、と。
 なんと未練がましい。なんという、身勝手な。

 「外すなよ。また一息を吹き返すかもしれん」
 密猟隊の頭(かしら)の指示に、男たちが斉射の構えを取った。炸裂柵の爆風で鱗を吹き飛ばしたあとに、鎖縄を首に撃ち込むつもりなのだろう。間違いなく致命傷である。果たしてどれくらい苦しんでから死ぬことになるのだろうか。ふん、実にくだらないことだ、と老龍は思い直した。
 ふと見れば、丁度少女が連れ去られるところだった。顔に痣が出来ていた。腕を引きずられるように、抵抗する力もなく引き立てられていく。そうとも、これが運の尽きというものだ。あの少女はそういう運命だったのだ。自分は死を定められていたように、あの少女も、きっと。
 そのとき、龍は驚いた。
 「違う」と少女が訴えたのだ。声ではない。その見えない両目がそれでも力いっぱいに見開かれ、龍を透明な視線で睨み付けていた。視力なき視線が龍の眼を貫き、龍は心を振るわせる声なき言葉を聞いた。
 このままでいいのか。龍よ、あなたは本当に尊厳を失ってしまったのか。心臓はもう止まってしまったか。熱は全て蒸発してしまったか。あなたは生きなくていいのか。私は生きたい。生きていたいのです、と少女は確かに言った。死に切れない、いいや、生きたい。私を助けて。力を貸して欲しい。力を。あなたに――

 なんと未練がましい。なんという、身勝手な。
 いいや、それとも。
 あるいは、それでこそ … …

 「ああ、本当にあなたは龍だったんですね」

 * * *

  深い夜の谷底で、昏闇(くらやみ)の中を駆け抜けて、幾筋もの爆光が閃いた。
 砕ける老木、吹き飛ばされる木の葉、飛び散る土くれ、それら全てが一瞬の間を置いたあとに灼熱し、瞬時に紅蓮へと姿を変えた。密生した木々を蹂躙して吹き上がった巨大な火柱が夜空を鮮やかに染め上げ、遅れて響き渡った轟音が大地を揺らす。唐突に粉砕された静寂が苦し紛れに空気を求めると、数秒を待たずに周囲の酸素が炎に消費し尽くされて、すぐに何事も無かったかのように鎮火した。
 周囲には燃え尽きた生物の成れの果てが散らばり、炭化して捻じ曲がった鎧の欠片が散乱していた。密猟隊は全滅ならぬ、焼滅をしたのだった。

 ちりちりと燃え燻る谷の底、そこには、あの龍の姿があった。感覚を失ってぴくりとも動かなかった幻肢はいまや灼熱の色に輝き、夜空に向かって吼えるその姿は、とても老いた龍のものとは思えない。
 その傍らに、みすぼらしい着物を着た、まだ幼い少女の姿があった。光を捉えられなかったその両目は燃え盛る炎に向かって眩しげに細められ、そして優しく撫でるような月の光に対してくすぐったそうに笑い掛けていた。
 しかし、龍の四ツ眼はもう何も見てはいなかった。傷ひとつないのに、光を映していない。そして、少女の両腕と両足は力を失って完全に萎えてしまっていた。どれほど力を入れても、もう立つことは出来なかった。
 龍と少女は、取り換えたのだった。
 龍は、視力を。少女は、手足を。


オーナー:L_D

(出典:マーガレット・ノベラゴラム α)

評価数:6
(掌)(piyo)(theki)(hosa)(kusa_hen)(GinIsami)


面白いです。 (hosa)(11/29 01時59分59秒)