名前:【 式龍と雛 】
HP :5
攻撃力:5
防御力:0
素早さ:2
剣技:
 ・高速剣
 ・蟲毒剣
 ・紅速剣
 ・絶対剣

設定:
 小さな少女(ひな)は言った。死んでも死に切れないのです、と。このまま野たれ死ぬとしても、死んでも死に切れない。だから生きたい。だから助けて欲しいと、確かに言った。あなたの力を貸して欲しい、と。
 なんと未練がましい。なんという、身勝手な。

 「外すなよ。また一息を吹き返すかもしれん」
 密猟隊の頭(かしら)の指示に、男たちが斉射の構えを取った。炸裂柵の爆風で鱗を吹き飛ばしたあとに、鎖縄を首に撃ち込むつもりなのだろう。間違いなく致命傷である。果たしてどれくらい苦しんでから死ぬことになるのだろうか。ふん、実にくだらないことだ、と老龍は思い直した。
 ふと見れば、丁度少女が連れ去られるところだった。顔に痣が出来ていた。腕を引きずられるように、抵抗する力もなく引き立てられていく。そうとも、これが運の尽きというものだ。あの少女はそういう運命だったのだ。自分は死を定められていたように、あの少女も、きっと。
 そのとき、龍は驚いた。
 「違う」と少女が訴えたのだ。声ではない。その見えない両目がそれでも力いっぱいに見開かれ、龍を透明な視線で睨み付けていた。視力なき視線が龍の眼を貫き、龍は心を振るわせる声なき言葉を聞いた。
 このままでいいのか。龍よ、あなたは本当に尊厳を失ってしまったのか。心臓はもう止まってしまったか。熱は全て蒸発してしまったか。あなたは生きなくていいのか。私は生きたい。生きていたいのです、と少女は確かに言った。死に切れない、いいや、生きたい。私を助けて。力を貸して欲しい。力を。あなたに――

 なんと未練がましい。なんという、身勝手な。
 いいや、それとも。
 あるいは、それでこそ … …

 「ああ、本当にあなたは龍だったんですね」

 * * *

  深い夜の谷底で、昏闇(くらやみ)の中を駆け抜けて、幾筋もの爆光が閃いた。
 砕ける老木、吹き飛ばされる木の葉、飛び散る土くれ、それら全てが一瞬の間を置いたあとに灼熱し、瞬時に紅蓮へと姿を変えた。密生した木々を蹂躙して吹き上がった巨大な火柱が夜空を鮮やかに染め上げ、遅れて響き渡った轟音が大地を揺らす。唐突に粉砕された静寂が苦し紛れに空気を求めると、数秒を待たずに周囲の酸素が炎に消費し尽くされて、すぐに何事も無かったかのように鎮火した。
 周囲には燃え尽きた生物の成れの果てが散らばり、炭化して捻じ曲がった鎧の欠片が散乱していた。密猟隊は全滅ならぬ、焼滅をしたのだった。

 ちりちりと燃え燻る谷の底、そこには、あの龍の姿があった。感覚を失ってぴくりとも動かなかった幻肢はいまや灼熱の色に輝き、夜空に向かって吼えるその姿は、とても老いた龍のものとは思えない。
 その傍らに、みすぼらしい着物を着た、まだ幼い少女の姿があった。光を捉えられなかったその両目は燃え盛る炎に向かって眩しげに細められ、そして優しく撫でるような月の光に対してくすぐったそうに笑い掛けていた。
 しかし、龍の四ツ眼はもう何も見てはいなかった。傷ひとつないのに、光を映していない。そして、少女の両腕と両足は力を失って完全に萎えてしまっていた。どれほど力を入れても、もう立つことは出来なかった。
 龍と少女は、取り換えたのだった。
 龍は、視力を。少女は、手足を。


オーナー:L_D

評価数:6
(掌)(piyo)(theki)(hosa)(kusa_hen)(GinIsami)


面白いです。 (hosa)(11/29 01時59分59秒)